映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

おと・な・り

2010年07月04日 | DVD
 昨日の記事で触れたように、麻生久美子が出演する作品は、最近のものについてはかなり見ているつもりにもかかわらず、『おと・な・り』(熊澤尚人監督、2009年)については見逃したままでしたので、そのDVDを借りてきて見てみました。

(1)この作品は、偶然アパートの隣同士になった岡田准一と麻生久美子の2人が、途中ではお互いのことが全然分からないままでいながらも、最後の最後になって結ばれるというラブストーリー物といえるでしょう。
 当代の人気俳優がヒーローとヒロインなのですから、面白くないわけがありません。

ただ、ヒーローがカメラマンでヒロインがフラワーショップの店員と現在トテモ人気のある職業に就いているのは安易に過ぎる(おまけに“フランス留学”といったことも話題になります!)、などと野暮なことは言いませんが、それにしてもかなりご都合主義な作りの映画だな、という感じがします。
イ)防音装置が施されオートロック方式等でセキュリティが厳重に守られている昨今のマンションならばいざしらず、隣の物音がかなり筒抜けになってしまう粗末な作りのアパートで生活していながら、長い間、隣同士が顔も合わせたことがなく、お互いに隣がどんな人間なのか全然わからなかった、というような状況はあり得るでしょうか(現に、谷村美月―岡田准一の親友・池内博之の恋人役―が岡田准一の部屋に転がり込んでいるときは、ベランダで彼女は麻生久美子と顔を何度も合わせているのです!)。

ロ)まして、二人は田舎で同じ学校の同級生だったにもかかわらず。
普通人の声は、何年たっても、電話で聞けばすぐに誰だとわかるほど判別がつきやすいのではないでしょうか?それが、電話での話し声などが隣から聞こえてくるというのですから、全然気が付かなかったというのはおかしな感じがします。

ハ)麻生久美子自身が、コンビニの店員から一方的な愛を打ち明けられると時を同じくして、彼女が勤めている花屋の若い店員も、相手の素性が分からないメル友に愛を打ち明けます。それのみか、花屋の店員のメル友が言っていた話が全部作り話だとわかると、麻生久美子の方でも、ほぼ同時期に、コンビニ店員の話もいい加減なものであることが判明するのです。

ニ) 麻生久美子は、コンビニの店員から「基調音」についての話を聞きますが、店員が「風」と言うと、突然周囲の木々が風で揺れてワサワサと音を立てますし、「水」と言うと池の水が風に煽られて立てる音がします。なんだか、映画学校の学生が作った作品を見ているような気がしました〔「心音」については、何の音もしませんが!〕。

ホ)麻生久美子は、ほんの数日したらフラワーデザインを勉強するためフランスに留学するというのに、取り組んでいるフランス語会話が「元気でしたか?はい、元気です」といったたぐいのごく初歩的なレベルに過ぎないというのはどうしたことでしょうか?

 とはいえ、この映画は、視覚というよりも聴覚を第一としながらラブストーリーを組み立てたという点で、企画の勝利であり、捨てがたい作品になっていると言えるでしょう。特に、
イ)映画の冒頭は真っ暗なシーンで、様々な音(コーヒー豆をゴリゴリ挽く音、ドアベルがカンコン鳴る音、加湿器のピーピーという警告音、などなど)だけがする中で、クレジットが映し出されます。

ロ)コンビニ店員は不誠実な男ながら、彼が麻生久美子に語る「基調音」(日常生活の中に埋もれているものの、そこにあるはずの音。普段は意識的に聞く事はない音。聞いているうちに次第に慣れてきて気に止めなくなる音)という考え方は、大変興味深いものがあります。

ハ)ラストのエンドロールは冒頭と同様、画像なしに、様々な周囲の音に混じって岡田准一と麻生久美子の会話だけが流されます。その会話から、二人は当初の計画通り、カナダに撮影旅行に行ったりフランスに留学したりした後、同じ部屋に戻ってきていることが分かります(キット一緒になったのでしょう!)(注)。

 とすれば、ここはあまり硬い無粋なことは言わずに、最後のエンドロールで流れる二人の短いですが魅力的な会話にも免じて、許すべきなのでしょう!

 なお、この作品では、『パンドラ』(2008年、WOWOW)で目に留まった谷村美月が、関西弁を駆使しつつ素晴らしい演技を披露しています(ヒロインの麻生久美子を食ってしまっているといえるのではないでしょうか)。


(注)麻生久美子の会話の中に、「ガレット」(そば粉でできたクレープ)という言葉が飛び出しますが(「フランスの下宿先のおばさんが作り方を教えてくれた」)、クマネズミの方は、つい最近のTVのニュース番組で、日本でもそれを出してくれるレストランが表参道あることを知ったばかりです!

(2)この作品を見て対極をなすのではと思いついたのが、2007年に公開された『真木栗ノ穴』(深川栄洋監督)です(注)。



 両者を簡単に比べてみますと、
イ) 『おと・な・り』もこちらの作品も、安アパートの住人同士の関係についての物語ではあるものの、『おと・な・り』が聴覚をメインとするのに対して、こちらは視覚をメインにしています。すなわち、『おと・な・り』では、薄い壁を通して隣から送られてくる信号は物音という聴覚にかかるものだけであるのに対して、こちらは“壁の穴”を通して見ることの出来る隣室の光景という視覚的なものです。

ロ)『おと・な・り』では、麻生久美子は岡田准一から送られてくる信号しか気にしませんが、こちらの場合、主人公(西島秀俊)は両隣から送られてくる信号に対応します(すなわち、壁の穴は二つあるのです)。

ハ)『おと・な・り』では、ヒーローもヒロインも30代になっているにもかかわらず性的なものは一切持ち込まれませんが、こちらでは性的なイメージに溢れています。

ニ)『おと・な・り』はラブストーリ物といえるでしょうが、こちらはサスペンス・ホラー仕立てになっています(主人公の元に現れる女性は幽霊かも知れず、更にここで物語れている話自体も作家の妄想ということも考えられます)。

 隙間から隠れて人の動きを覗くというストーリーは、昔からよくあるといえ、この『真木栗ノ穴』もその伝統に連なるのかも知れません(『屋根裏の散歩者』など)。その一方で、聴覚にかかる信号しかないという設定のラブストーリー物は、余り聞いたことがありません。

(注)真木栗ノ穴』については、渡まち子氏が、「覗きは映画の本質にも通じる行為。そう考えるとこの作品、案外深い」と述べて65点を与えています。

(3)この『おと・な・り』については、映画評論家の論評はあまり見当たりませんが、渡まち子氏は、「人生に迷う大人が主人公だが、展開は少女漫画のようで、偶然に頼るラブストーリー」ながら、「男女が顔を合わせることなく“音”で癒される設定が作品の個性なのに、音の力が恋の決定打にならないのは物語として弱い」として50点を与えています。


★★☆☆☆

象のロケット:おと・な・り
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2 コメント

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なる・ほ・ど (SunHero)
2010-07-04 23:30:16
クマネズミさん、ご指摘の通りツッコミ所満載の映画ですね。見て損したと思っていませんか?(笑)
ただ引用されたプロの映画評の「音の力が恋の決定打にならない」には笑ってしまいました。七緒が恩師の送別会で久しぶりに故郷の母校を訪れた際、聞き覚えのある鈴の音(聡の鍵の音)のような音に敏感に反応していましたよね?あの一瞬のシーンを見逃したとしか思えません。
確かに、聡のキーホルダーの鍵の音は決定打ではないかもしれませんが、あれがきっかけだったのは明らかです。行きつけのコーヒーショップで、漠然とした恋の予感が確証に変わる伏線だったんですがね。
よく似た中国映画があります。金城武&ジジ・リョン主演の「向左走向右走」(邦題:ターンレフト・ターンライト)です。原作は絵本らしいので、実写にするとどうしてもツッコミ所満載になってしまうようです。ご参考までに。
基調音 (kimion20002000)
2010-07-05 00:47:42
TBありがとう。
突っ込みの箇所は、その通りだと思いますね。
ちょっと、出来すぎの感が(笑)。
まあ、この作品は、「基調音」ということをあらためて考えさせると言うことが、すべてかな、と思いました。

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