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サバイバルファミリー

2017年02月21日 | 邦画(17年)
 『サバイバルファミリー』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)予告編を見て面白いと思い、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、東京の夜景が映し出され、救急車のサイレンなどの騒音が聞かれます。そして、主人公の鈴木義之小日向文世)の職場が映し出され、そこでは義之がPCに向かってキーボードを叩いています。

 次いで、義之とその家族が住む東京のマンション。
 義之の妻・光恵深津絵里)が、キッチンで、鹿児島にある自分の実家(注2)から送られてきた大きな魚を捌こうとしていますが、手にあまるようです。
 娘の結衣葵わかな)は「私、そんなの食べない」と言い、光恵が義之に「私ダメ。やってくれない?」と頼むと、彼は「俺はいいよ」と逃げます。それで、光恵は仕方なく、魚を冷蔵庫に仕舞います。更に光恵は、魚と一緒に送られてきた野菜の箱を見ながら、「これも無用なのよね。いいんだけど」などと呟きます。

 義之は、頭からウィッグを外し、結衣はつけまつげを外します。
 光恵は、「何かいた!」と叫んで、床にいた虫を紙で挟んでゴミ箱に捨てます。

 息子の賢司泉澤祐希)が帰宅し、コンビニで買ったものを口に頬張りながら居間に入ってきます。義之が見咎めて、「何か言うことはないのか?」「うちにメシがあるのに、ろくでもないものを食いおって!」と怒ります。
 賢司は、それを無視して自分の部屋に入り、PCに入っている国際経済学のノートを開けてチェックします。そんなところに、密かに思いを寄せる中村里美松浦雅)から、「今日の国際経済学とった?とっていたらノートを送って」との依頼の電話が入ります。賢司は2つ返事でノートを送信し、中村から「あっ、来た!ありがとう。明日ね」との返事を受け取ると、PCに収められている中村の画像を見て「可愛い」と呟きます。

 結衣も、自分の部屋のベッドで腹ばいになりながら、次々に来るLINEの対応に追われています(スマホには、「バッテリーが少なくなっています」との表示が)。
 居間では、光恵が「あの子達の携帯代が酷いことになっているから、あなたから言ってよ」と言うと、義之は「疲れているんだ。先に寝るぞ」との返事。

 さて、これで次の朝を迎えるのですが、鈴木家を巡る状況はどんなことになるのでしょうか、………?

 本作は、突然電気が使えなくなったら人々はどのように生き残りを図るのかということを、ごく普通の一家族に焦点を当てて描き出したものです。停電がバッテリーにまで及ぶのはよくわからないとはいえ、それも一つの設定だとして目をつぶると、たちまち通常の都市生活が全面的にストップしてしまいます。それに物資の供給が途絶えてしまうので、主人公ら4人の家族は、東京から鹿児島の実家に自転車で向かいます。その大変な様がコミカルなタッチで描かれていてなかなか面白いものの、ただ、物語として盛り上がりというかもう一捻りが必要なのではと思いました。

(2)なにしろ、本作では、発電所から送られてくる電気のみならず、バッテリーが使えなくなるのですから(注3)、単に部屋の灯がつかなくなり、TVや携帯の電源も入らなくなる、といったことにとどまらず(注4)、マンションのエレベータが動かなくなり、ポンプが止まって水道が出ず、トイレの水も流れなくなり、時計はおろか携帯も使えなくなってしまいます。
 街に出ると、勿論信号機が点いていないどころか、車があちこちでストップしています。電車も動きません。

 義之は、それでも勤務先に近いところに住んでいるために、出勤します(注5)。
 ですが、勤務先が入っているビルの入り口の自動ドアが開きません。それで、硬い物でドアの硝子を打ち破って、義之らはビルの中に入っていきます。

 光恵はスーパーに行くのですが、レジスターが動かないため、店員はそろばんで計算をしています。また、他の店員が「本日はカードは使えません。現金のみとなります」と大声で叫びます(注6)。

 こんな停電下の状況が、本作ではなかなかのリアリティをもって描かれています。
 そればかりか、鈴木家では、夜、一家4人がベランダから満天に輝く沢山の星を見て驚く様子まできちんと描き出されます(注7)。

 そして、同僚の部長(宅麻伸)が、「とりあえず水があるところを探しに行く」と言いながら家族を連れて東京を離れるのに遭遇したり、マンションの隣近所が次々に出発するのを見たりして、鈴木家も、8日目にして、妻の実家のある鹿児島に向けて自転車に乗って出発します(注8)。



 本作を見て、映画で見る戦争中の疎開の様子になんだか似ているのでは、と思いました。
 例えば、『この国の空』では、主人公(二階堂ふみ)の近所に住む画家(奥田瑛二)らが、東京では空襲で生活できないために、次々と田舎に疎開していきます。また、母親(工藤夕貴)と一緒に主人公は、郊外の農家に買い出しに行きますが、現金ではなくきちんとした着物でないと交換してくれません(注9)。
 こんなところは、本作の、都会を離れて田舎に向かう人々が高速道路に溢れている様子とか、羽田に向かう途中で米を物々交換で売っている女(渡辺えり)が言う台詞「お金とかロレックスなんか、何に使えるの?水か食べ物だったら構わない」を彷彿とさせます(注10)。

 まあ、都市から電気が突如として消滅したら、空襲に晒される都市と同じような状況に置かれるということなのでしょう。
 ただ、先の戦争中は、それでも、軍隊がいましたし、隣組制度などがあったりして、それなりに秩序はあったように思われます。
 これに対し、本作においては、鈴木家が鹿児島に向かう途中で自衛隊の一団に遭遇するとはいえ、警察とか消防団などといった公的な機関はほとんど姿を見せず、人々は何の情報もなしに放り出されたままの状態が続きます。
 もぬけの殻になった都会には空き巣などが横行するかもしれません。でも、電気が一切使えない状況では、いくら高価な物を盗んでも現下の生活を維持する上で何の役にもたちませんから、あるいは空き巣といった犯罪などあまり起こらないかもしれません。

 結局、停電から2年と126日経過して、突然鞄にしまってあった目覚まし時計のベルが鳴って、事態が元通り復旧するのですが、登場人物が「アレッ、治ったの」と拍子抜けするのと同じくらい、見ている方も「エッ、もう少し何か事件が起こるのでは?」と拍子抜けしてしまいます。

 言うまでもなく、停電中に得られた貴重な経験によって、鈴木家の面々も一皮むけています。



 例えば、義之は、自分が一家の大黒柱とばかりに、一家を引き連れていこうとしますが、真っ先に川の水を飲んで下痢をするとか、筏で川を横断しようとして流されてしまうなど、良いところがなく、その権威は丸つぶれとなってしまいます(注11)。
 とはいえ、それで義之は自分を見つめ直すことができ、今後は家庭でも職場でも、もっと柔軟に対応できるようになるのかもしれません。

 しかしながら、本作には、もう少し物語的な要素があってもいいのではないでしょうか?
 確かに、本作のような一斉の停電は、実に大きな出来事でしょう。と言っても、本作の大部分が停電の中での出来事ということになると、それは背景になってしまい、見る方としては、その中でもう一捻りがあっていいのでは、と思えてしまいます(注12)。

(3)渡まち子氏は、「災害シミュレーションとして笑わせながら、最後はしっかりと考えさせられる。必見の家族ドラマだ」として75点を付けています。
 前田有一氏は、「「ハッピーフライト」(2008)の矢口史靖監督らしい徹底取材によるリアリティと、小学生に見せても大丈夫な健全なコメディー、そしてしっかりとしたテーマを持つ良質なオリジナル作品。こういうものを見たかった、と手を叩きたくなる面白い一本だ」として90点を付けています。
 小島一宏氏は、「まるでドキュメンタリーのように、俳優たちがボロボロになっていく映画「サバイバルファミリー」は、シビアだが面白く示唆に富んだ物語だ」と述べています。



(注1)監督‥脚本は、『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』の矢口史靖

 なお、タイトルの「サバイバルファミリー」については、「家族の生存」という意味であれば、「family survival」とか「family for survival」とかのように思えますが、和製英語なのかもしれません。

 また、出演者の内、最近では、小日向文世は『杉原千畝 スギハラチウネ』、深津絵里は『永い言い訳』、葵わかなは『罪の余白』、時任三郎は『グッドモーニングショー』、大野拓朗高台家の人々』は、渡辺えりは『お父さんと伊藤さん』、柄本明は『疾風ロンド』、大地康雄は『幸福のアリバイ~Picture~』で、それぞれ見ました。

(注2)実家の父親(柄本明)が、海で釣った魚とか畑で栽培した野菜などを、自分の娘である光恵に送ってくるのです。

(注3)原因はわかりませんが、本作においては、電気エネルギーが消滅してしまうということなのでしょう。
 バッテリーは、電気エネルギー自体を蓄えているわけではありませんが、蓄えられていた科学エネルギーが放電によって電気エネルギーに変換されます。そうしてできた電気エネルギーが、何かの原因によって直ちに消滅してしまうのでしょう(この記事には、バッテリーと同じ働きをするものがいくつか挙げられています)。
 本作では、嵐が来ても落雷は起こらないとされていますが、もしかしたら、デンキウナギの電気もなくなってしまうかもしれません!

(注4)鈴木家では、小型ガスコンロは点きます。
 ただ、普通のサイズのガスコンロは、点火に電池を使いますから点きません。

(注5)ビルの入り口にいた同僚の部長が「遅いな、隣の駅なのに」と言うと、義之は「隣の隣」と訂正を求めます。
 また、職場で出勤者が少ないのを見て、義之が「若い奴らはやる気があるのか!歩いてくればいいんだ」と怒り、ソバにいた者が「部長の家は隣駅ですから」と応じると、義之は「隣の隣」と呟きます。
 ただ、劇場用パンフレットの「ロケ&シナハン」によれば、鈴木家のマンションは練馬にあるとされているところ、勤務先の入っているビルは都心にある感じで、そうだとしたら、勤務先から2駅で練馬のマンションに行くことができるようには思えません(練馬はロケ地ということでしょう)。

(注6)義之は銀行の支店に行きますが、ATMは使えず、通帳を持ってきた者だけが一人10万円の現金を受け取れます。
 ただ、銀行側にしても、様々な機器等が使えませんから、手持ちの現金(今時の銀行は、支店にそれほどたくさんの元気を置いていないでしょう)がなくなれば対応できなくなってしまうのではないでしょうか(現金輸送車も動かないことですし、本支店間の連絡もできないでしょうから)?

(注7)結衣が、夜空の沢山の星を見て「なんで?」と訊くと、義之が「街の明かりがないから」と答え、さらに結衣が、夜空にひときわ輝く一帯を見て「あれは何?」と尋ねたのに対し、光恵が「天の川」と答えると、結衣は「天の川って実在するんだ」と驚きます。

(注8)途中で、この危機的な状況を楽しんでいる斉藤一家〔夫(時任三郎)、妻(藤原紀香)、長男(大野拓朗)、次男(志尊淳)〕と出会ったり、豚を飼う男(大地康雄)に家業を手伝ってもらえないかと言われたりするなど、様々の人との出会いとか事件が起きたりします。

(注9)また、『戦争と一人の女』では、傷病兵の男(村上淳)が、米を求めて田舎にやってきた女に襲いかかる姿が描かれています。

(注10)鈴木家は、光恵が隠し持ってきた高級ウイスキーで米と自転車を得ることができました。

(注11)43日目に鈴木家は大阪通天閣の前に到着しますが、事態は何も変わっておらず、東京と同じです。これを見て結衣は切れてしまい、義之に向かって「もう嫌だ。自転車は大阪までと言ったわよね。お風呂に入っていないし、頭が痒い。俺について来いと言ったじゃない。嘘つき」とぶちまけます。すると、光恵は、「そんなことはわかっていたでしょ。お父さんはそういう人なんだから」ととりなします。

(注12)厳しい状況に置かれた登場人物がサバイバルすべく頑張るといった“サバイバル物”なら、これまでにも沢山の作品が制作されています(例えば、最近では、『ロスト・バケーション』)。
 その中で、本作のように家族が一丸となって危険な状況からの脱出を図るということになると、最近では例えば『クーデター』が挙げられるでしょう。ただ、同作は、外国で外国人排撃の集団に襲われ、なんとか安全な隣国に脱出しようとする一家の姿を描いたハラハラドキドキの作品となっています。
 翻って本作を見ると、そのまま東京にいたら死ぬことになるとの判断で、一家が脱出を図るという点では同作と類似するとはいえ、漂う雰囲気はまるで違います。それは、同作が戦争に類似した状況が背景にあるのに対して、本作は平時だという点から来るのでしょう。
 それでも、物語的な要素をもう少し何か加えれば、もっと緊張感あふれる作品になったのでは、と思われます(尤も、本作のようにコミカルな感じを出そうとすれば、本作くらいのところで良しとすべきかもしれませんが)。



★★★☆☆☆



象のロケット:サバイバルファミリー
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2 コメント

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Unknown (atts1964)
2017-02-22 08:26:41
サバイバルを極端に悲惨にしない、そして陰惨にしない矢口監督らしい作りでしたね。
どうして一切の電気が無くなったのかは、最後まで謎で、真相は不明にしていましたが、もしあのままの生活で元に戻らなかったら、人間は変わったのかもしれませんね(^^)
より人間らしくなれたのかも?そんなことを見終った後感じました。
SNSをやっている自分のことはさておいてですが。
こちらからもTBお願いします。
Unknown (クマネズミ)
2017-02-22 18:48:40
「atts1964」さん、TB&コメントをありがとうございます。
確かに、おっしゃるように、「もしあのままの生活で元に戻らなかったら」、「より人間らしくなれたのかも」しれませんが、「より人間らしい」の中には、闘争本能を燃えたぎらす人も出てくるということも入っているかもしれません(本作には、そんな人間は登場しませんが)。

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