映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ブルーハーツが聴こえる

2017年05月09日 | 邦画(17年)
 『ブルーハーツが聴こえる』を新宿バルト9で見ました。

(1)タイトルに惹かれて、連休中に映画館に行ってきました。
 本作は、解散して20年以上も経ってしまった「ブルーハーツ」が作った6つの曲に基づいて、6人の監督が制作した6つの作品からなるオムニバス映画(注1)。今回選ばれた6曲の中には、クマネズミのあまり知らないものも含まれていますが、ともかく、どの曲もブルーハーツ的世界が濃厚であり、それらから着想を得て制作された6本の作品は、どれもまずまずの面白さでした。

 例えば、第6話の「1001のバイオリン」(注2)の冒頭。
 主人公の達也(注3:豊川悦司)が運転する車に、後輩の安男三浦貴大)が乗っています。
 走っているところはどうやら福島県内の帰還困難区域のようです。
 安男が「せっかく逃げたんだから、仕事を探した方がいい」などと言うと(注4)、達也は「俺のことはかまうな」と応じます。



 そして、立ち入りが制限されている区域の防護柵の前に車を停めると、達也は安男に「帰れ」「タロウを探す」と言って、車から降ります。



 次の場面は、小学校のクラスで、達也の息子の圭吾荒木飛羽)が立ち上がって、自分が書いた作文を読み上げています。



 「お父さんが、タロウを探してくれました」
 圭吾が読み終わると、先生が、「ありがとうございました。今の作文に何か感想はありますか?」と児童に尋ねます。
 クラスの後ろには、たくさんの父兄がその様子を見ていますが、その中には達也も混じっています。

 さらに、達也の家の場面。
 達也が、突然やって来た安男に、「帰らなくていいのかい?」と訊くと、安男は「女房は実家の方ですから」と答えます。
 安男が「逃げて正解でした」「最初だけですよ、俺達でなんとかしようと言っていたのは」「嫁さんに、子供ができたと言われた時は、正直、大丈夫かと思いました」と言うと、達也は「すまん」「今まで原発で食ってきて、事故が起きたら逃げ出して」「一番しんどい時に、逃げ出した」「お前らに合わす顔がない」などと応じます(注5)。

 この後、達也は、安男を連れて車で福島に向かうこととなり、冒頭の場面に繋がりますが、さあ、物語はどのように展開するのでしょうか、………?

(2)上で触れた第6話「1001のバイオリン」ですが、ブルーハーツの曲(作曲・真島昌利)はいかにもブルーハーツらしいとは言え、その歌詞(作詞・真島昌利)はとてつもなくブッ飛んでいて(注6)、今回の作品との関連性はなかなか理解が難しい感じがします。
 それでも、「消しゴムひとつ」用意し、「ペンを片手に」持って、どんな物語でも書いてしまうというところが第6話と歌詞とで響き合うのかもしれませんし(7注)、あるいは、「支配者達はイビキをかいている」スキに、「道なき道をブッ飛ば」し、「金網をくぐり抜け」て「会いに行く」のが愛犬・タロウということなのかもしれません(注8)。
 こんなふうに、一方で、流れてくるブルーハーツの曲を楽しみながらも、他方で、映画のそれぞれの話が醸し出す意味合いをアレコレ考えるのも、また面白いなと思ったところです。

 もう少し言えば、例えば、第2話の「人にやさしく」は、宇宙船の大きさとか登場人物が何人もいるところなどは異なりますが、全体的な雰囲気は、最近見た『パッセンジャー』に繋がるものがあるように思え、いたく興味を惹かれました(注9)。



 また、第5話の「ジョウネツノバラ」は、登場人物は男(永瀬正敏)と女(水原希子)の2人だけで、女が息を引き取った後なので、セリフが一切ありません。ですが、それだけに一層、男の“情熱”のほとばしりが映像化されているように思いました。



 ともかく、本作には、尾野真千子市原隼人斎藤工優香永瀬正敏豊川悦司などといった著名な俳優が出演者として名を連ねているというのにも、目を見張ってしまいます(注10)。

 とはいえ、オムニバス形式のために、作品の仕上がりにばらつきが出てしまい(注11)、全体としてそれほどでもない印象になってしまうのは、仕方がないかもしれません。

 なお、「ブルーハーツ」の曲は、作家のよしもとばなな氏がブルーハーツ好きだったこともあって随分と聴くようになりました(注12)。
 正直、本作からは、「リンダリンダ」や「TRAIN-TRAIN」といった誰もがよく知る曲ばかりが流れてくるのかな、と思っていたところ、その期待はやや外されてしまいました。それでも、あの「情熱の薔薇」とか「人にやさしく」といった名曲を聴くことができるのですから、何の問題もありません。
 それに、「リンダリンダ」は、山下敦弘監督の『リンダ リンダ リンダ』(2005年)ですでに取り上げられていることですし(注13)。

(3)渡まち子氏は、「6話オムニバスというのは、正直、難しいスタイルだったと思うが、音楽と映像のコラボレーションという意味で、興味深い作品となっている」として60点をつけています。



(注1)第1話:飯塚健監督の「ハンマー(48億のブルース)」(尾野真千子)
 第2話:下山天監督の「人にやさしく」(市原隼人、西村雅彦
 第3話:井口昇監督の「ラブレター」(斎藤工、要潤山本舞香)。
 第4話:清水崇監督の「少年の詩」(優香、新井浩文)。
 第5話:工藤伸一監督の「ジョウネツノバラ」(永瀬正敏、水原希子)。
 第6話:李相日監督の「1001のバイオリン」(豊川悦司、小池栄子、三浦貴大)。

(注2)「1001のバイオリン」はバンド形式の「1000のバイオリン」のオーケストラ・バージョン。

(注3)達也は、福島原発の元作業員で、3.11の震災の後、東京に移り住んでいます。
 なお、安男は、福島原発の作業員時代の後輩。

(注4)達也は、東京に家族で移住したものの、就職先が決まらずにフラフラしているようです。

(注5)その後は、次のように続きます。
 達也の妻・絵理子小池栄子)は、「来るのわかっていたら、もっと凝ったものを出したのに」と言うのですが、達也が安男に「しばらく泊まっていけよ」と告げると、絵理子は「前の家とは違う。私は絶対嫌」と怒ります。



 それに対し達也が、「住むところは違っても、住んでいる人間は同じ」と応じると、娘の杏奈石井杏奈)が「どうしてわかってないの!」と父を詰ります。
 さらに、達也が「今日は皆でどこか行くか?」と気楽そうに言うと、絵理子は「あんたと違って忙しいの」と応じます。
 それで、達也が「タロウでも探しに行くか?」と言い出すのですが、絵理子は「馬鹿なこと言わないで」と応じ、杏奈は「せっかく忘れようとしているのに」「タロウより先に仕事を探したら」と怒ります。
 にもかかわらず、達也が安男に「安男、一緒に行こう」と出かけようとするものですから、絵理子は「お願いだからちゃんとして」と嘆きます。



 こうして、映画は、第6話の冒頭の場面につながっていきます。

(注6)歌詞はこちら

(注7)李監督は、この記事の中で、「まぁ最初の“ヒマラヤ”っていうのと“消しゴム”っていうフレーズなんでしょうね。たぶんそれがすごくいろんな想像力を膨らませるというか。そんなかんじです(笑)」と語っています。
 また、この記事の中でも、「「ヒマラヤほどの消しゴムひとつ」「ミサイルほどのペンを片手に」という「超ミクロと超マクロなものが1行で出てくる詩の世界観の強度」にひかれた李監督は、「綺麗な曲ではあるんですけど、抵抗の歌にも聞こえるんです」と説明」と書かれています。

(注8)第6話の中には、達也の娘の・杏奈がマーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』を読んでいるシーンが映し出され、あるいは歌詞にある「熱いトタン屋根の上」というのは、テネシー・ウイリアムズの戯曲『熱いトタン屋根の猫』に関連しているのかな、とも思ったりしてしまいます。

(注9)例えば、『パッセンジャー』では、移動する宇宙船に隕石が衝突して、その推進機関が重大な損傷を受けるのですが、第2話でも同じようなことが起こりますし、『パッセンジャー』では、宇宙船に乗っていたジムクリス・プラット)が、身の危険を投げ打つ船外活動によって推進機関の修復に努めますが、第2話でも謎の男(市原隼人)が同じように船外活動を行います。
 なお、この謎の男がアンドロイドであるというところから、「人にやさしく」というタイトルにつながってくるのでしょう。

(注10)ただ、監督については、第6話の李相日監督を除いて、クマネズミには余り馴染みがありません(飯塚健監督の『荒川アンダーザブリッジ The Movie』は見ていますが)。

(注11)クマネズミには、第1話は、尾野真千子が与える感じと歌詞(「ハンマーが振り下ろされる 僕達の上に」)から、ラストが予め見えてしまうのではと思われ、また、第3話は、近頃よく見かける「学園物+SF」的な感じがしますし、第4話はホームドラマ的な雰囲気を超えてほしかったな、と思いました。

(注12)例えば、こうした記事が参考になるでしょう。

(注13)以前、DVDで見たことがありますが、前田有一氏がこの記事で言うほどひどい作品ではなかったように思います。



★★★☆☆☆



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