2024/04/02 読売新聞オンライン
東京五輪・パラリンピックの選手村跡地に整備された大規模マンション街「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」(中央区晴海)。年明けから入居が始まる中、4月からは中央区の施設や小中学校が次々と開設されるなどし、1万2000人規模になる街が本格的に動き始めた。新しい街は価値あるレガシー(遺産)になり得るのか。現状と課題を探る。
雨雲が抜けた空は晴れ間がのぞき、日差しが反射した海はきらめいていた。
1日朝、晴海区民センターの中に設けられた「渋谷教育学園晴海西こども園」が開園し、近くのハルミフラッグ方向から、続々と園児らが初登園してきた。1~6歳の園児の多くは緊張した面持ちで、中には泣き出してしまう子も。1歳児のクラスでは「はじめましての会」が開かれ、園児20人と保護者が好きな遊びを紹介し合っていた。
同園の木村英美園長は「新しくできた街で、新しく出会った人たち。子育てを通じて、人をつなぐ拠点となるよう応援していきたい」と話した。
約13ヘクタールの敷地に広がるハルミフラッグには、14~18階建ての集合住宅21棟と、50階建てのタワーマンション2棟(2025年完成予定)が立ち並び、住戸数は5632戸に上る。晴海地区周辺の相場より割安な価格設定が人気を集め、抽選倍率は最高で266倍となった。当初は2023年3月頃に入居できる予定だったが、東京五輪の開催延期の影響で引き渡し時期も遅れが出た。
「完成していたのに、住めない期間が長くもどかしかった」。今年1月から家族5人で住み始めたコンサルタント会社経営の女性(43)も、入居を待ちわびていた一人だ。
女性が晴海地区の別の分譲マンションに住み始めたのは09年。当時の晴海には小さなスーパーしかなく、宅配ピザは配達エリア外だった。通行量の少ない車道には、休憩中のタクシーが列をなして並ぶのが見慣れた光景で、地方に住む親戚からも、「晴海? 聞いたことないね」と言われたという。
13年に東京五輪・パラリンピックの開催が決まり、晴海に建設される選手村は、大会終了後にマンションとして活用されることに。女性は家族が増え、2LDKの間取りでは手狭になっていたこともあり、広い部屋の多いハルミフラッグへの住み替えを検討し、19年夏に約70倍の抽選をくぐり抜けて購入した。
ハルミフラッグ内には、大型スーパーや医療機関など39店舗が入った商業施設「ららテラス HARUMI FLAG」が3月1日にオープン。同27日には、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンエネルギーとして注目される水素を供給する水素ステーションも近くに開所した。水素はマンション街に設置された燃料電池で電気に変換され、共用部の照明やエレベーターなどに使われている。
日常生活が充実していく一方で、課題として残るのは公共交通機関の問題だ。都は、バス高速輸送システム「東京BRT」のハルミフラッグと新橋(港区)を結ぶルートの運行を2月1日から始めた。ただ、ハルミフラッグから最寄り駅となる都営地下鉄大江戸線・勝どき駅までは、近いところからでも徒歩で15分かかる。都などが出資する第3セクターが運行を目指す「臨海地下鉄」が、晴海地区に駅を造る計画はあるが、開業予定は2040年頃と、まだ先の話だ。
それでも女性は、15年前の晴海地区と比べて住みやすさは格段に向上したと感じている。「晴海はこれからますます成長していく街。そんな街で子どもを育てていけるのは魅力です」