駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

難しい癌患者の在宅医療

2015年08月18日 | 医療

              

 毎年五名から十名を在宅で看取っている。死亡診断書の平均年齢は八十代後半だ。九十代の方も多いのだが、末期癌患者さんが二割ぐらい居られ、そうした患者さんには七十代の方も多く、中には六十代の方も居られるので、平均年齢が九十歳を超すことはない。

 厚労省は自宅で最期をという国民の希望?を追い風に、在宅医療に移行する方向で動いているが、実態は複雑で患者さん個々で随分事情は違う。正直なところこの動きの一番の原動力は医療費の削減にあるのだろうと思う。

 確かに住み慣れたところで家族に看取られ眠るように死ぬことが出来れば理想的かも知れないが、それには幾つかの条件が整う必要があり、実感では四、五人に一人が現実だ。

 病気の種類で必要とされる介護力が異なるし、亡くなるまでの期間も異なる。家庭の事情によって介護力に大きな差が出てくる。それに、実際に最期が見えてくると心境も変わることもある。外国の事情には詳しくないが、日本では家族に迷惑を掛けたくないという高齢者も多く、自ら自宅よりも老人施設や老人病院がよいと言い出される方も居られる。家庭の都合で寝たきりになった親を生活保護にして施設に入れられる家族もある。

 病院から本人家族の希望もあり、自宅で最期をと退院される末期癌の患者さんを年に数名受け取るが、最期まで自宅で診ることが出来るのは六割くらいで、四割くらいの患者さんは病院に戻られ最期の一週間を過ごされることになる。末期癌と言っても六七十代の患者さんは生命力が残っていて、眠るようにとは行かないこともあり、家族が耐えられなくなったり異論が出たりするのだ。在宅では家族の介護力がないと何かと難しい事も多い。何とか頑張って最期を家で迎えられたような場合は大抵娘さんかお嫁さんの大きな献身が背後にある。勿論、老夫婦でも介護される方がお元気な場合には、最期まで在宅で過ごせることも多い。

 在宅医療は訪問看護ケアマネ病院診療所の連携・・・が整ってきてはいるが、やはり個々の患者家庭で実態には大きな幅があり、とても一言二言で捉えられるものではない。

 盆休み前に、娘さんが遠隔地に住んで居られ、介護する妻に認知がある末期肺癌のKさんを病院に戻したのだが、14日に亡くなったと病院からFaxが届いていた。

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