中学校卒業の謝恩会で校長は唄った、恋せよ乙女と。遠い昔の思い出だ。その時は何で古い唄をと思っただけだったが、半世紀を経て何となく校長の心境が分かる気がするようになった。これは恋の唄のようで、事実そうなのだが、奥深い命の唄でもあるのだ。
いのち短し 恋せよおとめ
朱き唇 褪あせぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日は ないものを
いのち短し 恋せよおとめ
黒髪の色 褪せぬ間に
心のほのお 消えぬ間に
今日はふたたび 来ぬものを
こうした感性が薄らいで、少子化時代がやってきたように思う。尊くも儚い命を唄う代わりに、若返り狂騒曲が鳴り響き、健康関連産業が売り上げを伸ばす時代が来た。避妊法は知っていても卵子が歳を取るのを知らない若者達にゴンドラの歌はどう響くのだろうか。無人のゴンドラが木枯らしに揺れている。