玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*天才絵師・若冲

2012年01月16日 | 捨て猫の独り言

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 「ジャクチュウを知ってるだろう」と問われて、「え!ジャクチョウ?」「ちがうちがう、そうか知らないのか」と友人に憐れむような顔をされたのは、去年の秋のことだった。これから友人の案内で訪ねる杉並のお宅には若冲の作品が個人的に所蔵されているから、おそらく見せてもらえるだろうという。期待通り若冲の水墨画の屏風絵が持ち出されてきて部屋いっぱいに並べられた。心して見ていなかったせいで、今ではそれらの絵の細部の記憶は薄れてしまっている。あの時いただいた日本酒のせいでだろうか、いやもともと私は記憶力が驚くほど弱い。

 14日(土)の新聞の番組欄に「伊藤若冲~江戸時代の天才絵師を徹底解明」の文字をたまたま見つけた。作品の秘密を4回に分けて解き明かしていく番組だという。1回が90分という力作だ。昨年の大震災直後の4月にNHKBSプレミアムで4日連続で放送された番組の再放送だという。第1回の「色と光の魔術師・奇跡の黄金」と第2回の「命のクリエーター・超細密画の謎」を続けて見た。3時間もテレビの前に釘付けだ。翌日の15日(日)に第3回「千年先を見つめた絵師・ボーダレスJAKUCHU」と第4回「黒の革命・水墨画の挑戦者」が放送された。思いがけなく2日連続して私は若冲の世界に没頭することになった。

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 高校生用の日本史の資料集を開いてみた。索引にもどこにも「伊藤若冲」の名は見い出せない。これまで私が伊藤若冲を知らなかったとしても仕方ないことよと自らを慰めた。つぎに日本語大辞典を調べると「江戸中期・後期の画家。京都の人。水墨画の奇態なフォルムと装飾画の濃密な色彩が特徴」と簡単であるが記されていた。これまでの若冲評価の在り方を見た思いだった。今回の番組によると、若冲は酒をたしなまず、女性には目もくれず、ひたすら絵を描くことを楽しみにして、絵を通して仏教に帰依するかのような85年の生涯を送った。

 若冲は独学の人であるがゆえに流派の束縛などもなく自由に創作に打ち込んだようだ。いろいろな絵の技法に挑戦し、若冲の技は天才と呼ぶにふさわしい。極彩色の絵から黒一色の墨絵というような広がりをもつ。墨のうすい「にじみ」を利用して輪郭線にする「筋目描き」という技法が番組で紹介されていた。大きな筆一本でとぐろを巻いた蛇を描く大道芸術家が町に現れた子供の頃を思い出した。蛇のうろこが浮き出す技に観客は見入っていた。番組が紹介する若冲の筋目描きの作品は菊および鶏の羽だった。今回運よく番組に出会うことができて若冲について多くのことを知り、若冲の作品を所蔵するあのお宅をもう一度訪ねたいと思うようになった。(写真は日展会場にて)

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