玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*武田泰淳

2023年08月31日 | 捨て猫の独り言

 武田泰淳の長編「森と湖のまつり」を読んだ。これといった理由はない。あるときぼんやり本棚を眺めていてまだ読んでなかったことに気づいただけのことである。武田泰淳は浄土宗の寺に生まれる。「中国文学研究会」の設立に参加、1937年華中戦線に送られるが2年後に除隊、1943年に「司馬遷」刊行、終戦時には上海に滞在していた。

 日本に帰国して1947年に「蝮のすゑ」を発表、同年北大法文学部助教授として勤務、翌年「近代文学」の同人となり作家活動に専念するため退職し帰京。「森と湖」は連載の当初はこれほど長大なものになることを予想していなかったという。作者43歳から46歳までの成熟期にエネルギーを傾注した作品。北大時代に見聞したアイヌ民族への共感は深い。

  

 泰淳は学生時代から書物を通じて親しんできた中国人の生活をじかに見聞している。三千年の歴史を有する5億の民が住む荒漠たる大地、そこには日本人とは比較にならぬ大善人も大悪人もおびただしく生れでている。泰淳は一般にニヒリストと言われているが、不思議と「森と湖」にはそのような雰囲気はない。

 泰淳の上の前歯が二本ない写真を見た記憶がある。いくらすすめても歯槽膿漏を直そうとしなかった。「人間は本来、絶えず精神的な苦悩に直面しなければならぬ存在なのであるから、肉体の苦痛に対しても同じように耐えていなければならぬという一種の信念に近い考え方」があるからではないかと埴谷雄高は推察していた。

 

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*パリは燃えているか

2023年08月28日 | 捨て猫の独り言

 長年のモヤモヤが氷解した気分だった。甲子園の決勝戦が行われた8月23日の1時から、NHKBSの戦争スペクタクル超大作「パリは燃えているか」(1966年公開)を観た。まずこの映画のタイトルはヒトラーの「敵に渡すぐらいなら灰にしろ。跡形もなく燃やせ」というパリ破壊命令からきていることを知る。

 私はそもそもこの映画のことを知らず、このフレーズだけは聞き知っていて、これはなにか蜂起の連帯の呼びかけの言葉だろう考えていた。ヒトラーが発したセリフとは知らなかった。ドイツのパリ占領期の最後のパリ軍事総督・コルテイッツ将軍はヒトラーの命令を無視し続け、連合国側に降伏しパリを救った男として後世に名を残した。

 映画は1944年8月7日から8月19日のレジスタンス蜂起開始から、アメリカ軍の援護を受けて8月25日のパリ解放までを描いている。コルテイッツ将軍を説得するスウエーデン領事役のオーソン・ウェルズは存在感があった。アランドロンはレジタンスの大佐役、カフェの女主人はシモーヌ・シニョレ、米兵にジョージ・チャキリスやアンソニ・・パーキンスなどの懐かしい顔があった。

 1995年3月にNHKスペシャル「映像の世紀」の放映が開始された。そのテーマ曲の作曲者が加古隆だ。その曲の題名も「パリは燃えているか」である。映像とともにテーマ曲の圧倒的な迫力に感動した人は多いと思う。加古隆は人間のもつ愚かさ(燃えているか=戦争の繰り返し)、人間のすばらしさ(パリ=科学・芸術)の二面性を表現したかったと述べている。

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*きわどい判定

2023年08月23日 | 捨て猫の独り言

 今年の夏の高校野球・神奈川県大会の決勝は、6対5で慶応が横浜に劇的な逆転勝利を収めて甲子園の切符を手にした。その最終回の微妙な判定が大きな話題になった。興味があったのでその経緯を調べてみた。

 最終回、2点ビハインドの慶応は先頭打者が出てつぎの打者の打球はセカンドゴロ、横浜のショートはセカンドからの送球を受けて二塁ベースをつま先で触れるようにして、一塁へ送球。一塁はセーフ、しかし二塁もベースに触れてないと判定されてオールセーフとなる。その直後慶応に逆転の3点本塁打が飛び出す。

 あのとき、だれもが2塁ホースアウトと思った。このショートの高度なプレーで騒動がもちあがった。はたして爪先はベースに触れたのかそうでないのか。該当審判が一番リプレイ検証して欲しかったのではないか。プロではビデオ判定でも明らかでない場合では審判の判定が優先されることになっている。

 また甲子園の準決勝の神村学園と仙台育英との試合でも微妙な判定が起きた。3回に仙台がスクイズを敢行する。トスを受けた捕手が走り込んだ三塁ランナーにタッチ。タイミングはアウトだが判定はセーフ。これで1点を勝ち越す。動揺した神村学園はこの回さらに3点を献上して2対6で敗れた。

 

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*夏野菜のことなど

2023年08月21日 | 捨て猫の独り言

 連日35℃前後の夏日が続く。この状況が長期間続くという予報だ。農作物に影響が出て野菜が値上がりしている。また海水の温度が上昇して海の生態系に危惧すべき状況が起きているという。待ったなしの状況なのに人類はなす術がないようだ。

 現在はトマト、キュウリ、ピーマンの夏野菜はすべて引き抜かれて畑から姿を消している。どれも良い出来だったが、中でもキュウリの収穫は予想をはるかに超えた。隣近所に配っても余る。酢の物、ピクルス、油いためなど手を変え品を変えして消費に忙しい。

 畑とは別に東側の窓に例年通りゴーヤの緑のカーテンを作った。残念ながら収穫途中に撤去する破目になった。この8月に屋根の吹き替えと外壁塗装の工事を始めることにしたためだ。その足場を設置する必要があり、ゴーヤは障害となったのだ。

 

 この十数年に一度の大工事の計画は6月ごろには全く念頭になかった。ふとしたなりゆききでこうなった。人生とは不思議なものですねと誰かが耳元でささやいた気がした。まだ実のぶら下がったゴーヤのカーテンを泣く泣く引きずり倒した。

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*深川祭り

2023年08月17日 | 捨て猫の独り言

 月2回発行の新聞折り込み誌(定年時代)で、深川八幡祭の本祭が6年ぶりに行われるという記事を読んだ。5月の神田祭、6月の山王祭、8月の深川祭は江戸の三大祭と言われていた。これらのどの祭も見学したことはない。一つぐらいは見届けておきたいと思った。江東区の富岡八幡宮には行ったことがある。横綱力士碑や伊能忠敬像がある。

 祭りと聞けば血が騒ぐ。台風の余波で午後からは雨が予想されていたが、愛用の地下鉄大江戸線に乗る。八幡宮の最寄り駅は門前仲町駅であるが、10時過ぎに一つ手前の清澄白河駅で降りたのは正解だった。門前仲町駅なら最後の神輿も出発していた。乗車した新宿西口駅は地下深くだが、清澄白河駅はすぐに地上に出られる。出たとたんに激しい雨の中の神輿が目に入った。

  

 祭り5日間のうち13日の日曜が「各町神輿連合渡御」で、53基の神輿が練り歩く。沿道の観衆から神輿の担ぎ手に清めの水が浴びせられる。それで「水かけ祭」と呼ばれている。私は隅田川にかかる清州橋を渡ったと思われる先頭の神輿を追う。箱崎町から新川1丁目あたりのビルの谷間で昼食休憩だ。12時過ぎに八幡宮を目指して先頭の神輿が動き始めた。その永代橋のたもとでは空高く消火栓の放水があり、後半の幕開けだ。

  

 永代橋を渡り永代通と清澄通との交差点で、ことさら神輿は激しく回転し突き上げられ、清めの水を浴びる。さて本祭は3年に1度だとされている。「6年ぶりの本祭」の意味が分かった気がした。富岡八幡宮では、2017年に宮司の地位継承をめぐるトラブルで陰惨な殺人事件が起きている。コロナの影響だけなら3年のはずだが、この事件のために6年という歳月が必要だった。

 

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*琉球処分

2023年08月14日 | 沖縄のこと

 琉球王国は1429~1879まで450年間存在していた。1609年薩摩藩による琉球侵攻をへて、1872年には琉球藩が設置される。1879年に琉球処分官の松田道之が無抵抗の首里城に進軍した。琉球処分とは明治政府が琉球王国を清朝の冊封体制から切り離して沖縄県として自国に編入した過程をいう。(琉球王国の国旗)

  

 それから日清戦争による台湾併合の下関条約の1895年まで、沖縄では琉球士族層によって琉球救国運動(ストライキ・サボタージュ)なるものが展開される。図書館で涼みながら世界8月号の特集「安倍政治の決算」を拾い読みした。ロイター通信の豊田裕基子が安倍政権と沖縄について述べた論の題名は「美しい国の琉球処分」となっていた。

 〈安倍政権は日本全体を守るための基地というコストを沖縄に背負わせるという構造的な差別を「国策」と明示した政権であった。日米同盟の存在が沖縄の人々の暮らしや生命を凌駕することも「正しさ」の文脈で語られるようになった。結果として日本政府と沖縄の関係は鋭い対立構造の中に置かれることになった〉なるほど、かつての琉球処分に匹敵する強権政治そのものだ。

 〈米国との約束が日本国憲法で保障された地方自治や人権を押しつぶしても先行するのは沖縄だけのようである。安倍政権が国政選挙に連勝して、多くの日本の人々はこうした状況を支持あるいは黙認してきた。自らの権力を使ってルールを変更し人々を統治することをルール・バイ・ロウ(法による支配)と呼ぶ。安倍政権が見せつけてきたのは沖縄は法による支配の対象であるとの認識であった〉しかり対外的には「法の支配」を叫びながら、これは安倍政治につきもののダブルスタンダードだ。

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*暑い夏の読み物

2023年08月10日 | 捨て猫の独り言

 「危険な暑さ」という予報にも慣れっこになった。人は破滅を迎えるまで、なんにでも慣れてしまうものらしい。この夏の暑さに負けてめっきり本を手に取ることが少なくなった。そんな折に手ごろな読み物に出会った。西崎伸彦著「海峡を越えた怪物」だ。

 著者は週刊ポストを経て週刊文春の記者である。怪物とはロッテ創業者・重光武雄のことだ。重光は1921年に釜山の北の貧しい村に本名の辛格浩として生まれた。1940年に植民地政策である創氏改名により辛一族は重光姓を選んでいる。その翌年、重光は身重の妻や両親に何も告げず、釜山から船で日本に渡る。(窓辺に蟷螂が)

 

 そして日本と韓国で巨大財閥を築き上げた男は失意のうちに2020年にソウルで死去(享年98)している。この本では、一人の逮捕者もなく多くの謎を残したまま闇に葬られた1973年8月8日の「金大中拉致事件」の全貌が解き明かされる。1970年に朴政権の駐日大使として赴任していた李厚洛が、KCIA部長に就任する。李と重光の二人は囲碁が好きで頻繁に会食も行っていた。

 事件の後、朴大統領の密命を帯びた首相の金鐘泌が来日し、田中角栄首相や大平外相と面会して陳謝する。事件解決の工作資金として三億円を届けたとされる。事件から34年後の2007年に革新系の廬武鉉政権の真相究明委員会は「李厚洛を始めとするKCIA要員24名に駐日公使などを含めた計27名が参加した組織的犯罪と断定、朴大統領の暗黙の了解があった」と結論付けた。

 

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*記号設置とは?

2023年08月07日 | 捨て猫の独り言

 今朝のスーパーのチラシに「タイパ&コスパ最高!!」とあった。コスパはやっと使い慣れてきたが、はてなタイパとはなんだろうかと考えこんだ。しばらくしてタイム・パフォーマンスであることに気づいた。「トリセツ」でも同じような経験をした。

  

 あたかも人と会話しているかのようにAIが質問に答える「ChatGPT」が話題になっている。それに関連して、認知科学が専門で、人の言語学習に詳しい今井むつみ慶応大教授の記事を読んだ。そのなかに耳慣れない「記号設置」という言葉があった。

 言葉の意味を真に理解するためには、現実世界から受け取る具体的な情報について、身体的な感覚を持つ必要がある。言葉と感覚が結びつくことを記号設置という。身体のないAIは言葉の意味を理解していない。ここまではひとまず納得した。しかしつぎの、AIは意味のない記号列の定義の間をさまよい続け、何かの意味に永遠にたどり着けないとある。この箇所まだ得心できずにいる。

 さらに今井教授は述べる。AIはこの言葉の後にはこの言葉がふさわしい、という情報処理をしながら文章を生成する。言うなれば「次の単語予測機」だ。人は直感をもとにした発想の転換をよくするがAIはしない。AIが誤ることがあることを知り、わからなければチャットGPTに聞けばいいという意識付けを避けることが重要と。

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*続行は誰の決定か?

2023年08月03日 | 沖縄のこと

 普天間飛行場の返還合意は1996年。県民の反対を押し切り、辺野古では今も工事が行われている。しかし埋め立てが進んだのは辺野古側のことで、埋め立て予定海域の8割超の手つかずの大浦湾側の海底はマヨネーズと言われる軟弱地盤という。だから基地完成の目途を予測できる者は誰もいない。

   

 かくして普天間飛行場の危険性は放置され続ける。軟弱地盤の技術的な解決策はなく完成自体を疑う人もいる。誰が工事を続ける決定をしているのか、あれほど予算を投入し、反対を押し切ってここまで来た以上いまさら止めると言えない。工事が進めば進むほど止めにくくなる。引き返す勇気のある政治家がいないものか。

 

 行動する土着の作家・目取真俊のブログ「海鳴りの島から」は欠かさずチェックしている。「米軍にとって辺野古新基地が完成しようがしまいが問題ではない。工事が続く限り代替施設が完成しないからと理由をつけて普天間基地を使い続けることができる。しかし完成の目途が立たない基地のために時間と予算を浪費する余裕は日本にないはずだ」私は思う、もしも普天間で大事故が起きると日米関係の根幹が揺らぐ事態になる。アメリカもそれを恐れているはずだ。

 「無理やり工事を進めても工事は延長を重ね膨大な予算が浪費されるだけ。10数年あるいは20数年後の東アジアの状況を想像すべきだ。中国に対抗すると言っても、ミサイルやドローンが前面に出る時代に滑走路の短い辺野古新基地やオスプレイがどれだけ役に立つというのか。基地利権に群がる業者と政治家は儲かる。そして沖縄住民は苦しみ続ける」私は辺野古新基地反対運動の息の長さに感動し歯ぎしりするばかりだ。

 

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