玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

パリのおばあさんの物語

2011年09月15日 | ねったぼのつぶやき

 その人は、裾に花柄を巡らしたダーク系のフレア・ワンピースの上に、オークル系のゆったりした丈長のカーデイガンを羽織り、ハイヒールを履いて颯爽と舞台に現れた。その人とは正に颯爽という形容がピッタリする往年の女優岸恵子さんだ。近年は女優業の他にエッセイスト・リポーター・作家としても益々活躍中の女性だ。

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 TVで映画「おとうと」を見て以来、数冊の著書など図書館から取り寄せて読んでいた。私も会員である文化ホールの会報に、「仲道郁代氏のピアノ伴による岸恵子の朗読会」とあった。ワザワザ聴きに行く積りもなかったが、彼女の翻訳による上記の本を読んで「イッテみようか?もうこんな機会はアルマイ。颯爽ぶりもミタイし」と遅まきの予約を入れた。私の場合、颯爽とはモハヤ程遠く、” 万事無難に ”の思想が日常を支配しているが、一回り先輩格である彼女はといったら、マダマダ夢や冒険を夢見ており老境という言葉には嫌悪感さえ示している。

 物語は子供から大人まで読めるわずか37頁の絵本である。暗黒の時代(ナチス下)を生き抜いたおばあさんは、人間の邪悪な残忍性や差別に怯えながらも、その毒牙から知恵と我慢で家族を守った。厳しさを乗り越えた後に訪れた平穏な日々を楽しんだ後、遂には万人が平等に背負う定めの「老い」を迎える。「全部出来ないなら、できることだけやっていこう。今日上手くいかなくても明日はキット上手くいくわ・・」とグチはこぼさない。かつての様に前を向き、安楽椅子の中で時に思い出と差し向かう。離れて暮らしている息子からの電話にも「何も変わりはないわ!」と心身の不自由を見せないばかりか、再び突然の不運に襲われないよう祈るのだった。

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