息子も新社会人になりました。
息子の就活は一昨年12月にスタート、しかし苦戦し、彼がここの内定をもらったのは昨年9月。
高校時代も大学(※ともに超難関レベルではない)とも比較的上位にいられた息子にとって、初めて挫折を味わうことになった就活であり、そしてまた、大学院進学にも未練があったこともあり、複雑な就活でもありました。
そんな息子が、研修を終えて帰ってくると、上司から、数か月間、ある資格の研究生として学びに行くように言われたと言って、嬉しそうに報告してくれました。
この資格はすぐに取れるものではないので、「それは取れれば万々歳だけど、その科目を学んで、今後に生かしてもらうことが目的だ」と、上司に言われたそうです。(とはいえ、言われた方はありがたく思い、一層資格獲得を目指すでしょう。)
この話を聞いた後、たまたま別件で英国人社会学者のD氏にメールをすることがあったので、最後にこの話を書き添えました。
D氏は、息子の幸運を喜んでくれて、
「社員にお金をかけてトレーニングさせるということ、これは日本企業の強みですね」
と言い、そしてちょっと遠回しな言い回しでありましたが、息子が勉強をさせてもらったところで、すぐにその資格(知識)をもとに転職をしてしまった場合」のことに触れてきました。
これに対し、私はD氏に、
「社員・職員教育にお金をかけてくれるクラシカルタイプの職場は得てして居心地がよく、その恩恵を被った日本の若者たちでそこを去ろうとする人は少ないでしょう。そして、そのことは、経営陣もよくわかっているので、なにかしら誓約書を取る必要もなく、双方の『暗黙の了解』で成り立っているんだと思います。」
と返事をしました。
さて、社員教育-今でもある程度の大きさの職場であれば昔から現在まであると思いますが、その研修の中身や質はどうでしょう。
もうだいぶ前から雇用側は買い手市場。新入社員選びも「知識、資格を持っている」というのを前提に選ぶので、あまり教育に時間をかける必要もなくなったでしょう。
(語学に関しては、内定が決まった学生に「入社前までにTOEIC800点以上取得を義務付ける」などというケースもあるでしょう。)
そして、終身雇用制が一般的ではない欧米の会社が『転職するかもしれない社員のためにお金と時間を使っていられない』というのと同じで、日本も転職率が高くなっている現状(日本の転職は残念ながらステップアップのための転職というより、ブラック企業に見切りをつけた転職が多いかも・・・。)で、社員・職員教育の教育はその職場でしか通用しないようなことの教育がほとんどになっていないでしょうか。
そもそも今は、非正規労働者が、正規労働者と同じような仕事を平気でさせられるようになっていて、彼らの場合、ほとんどは実務的なことを短い時間で教わるくらいなのではないか、とも思います。
私が新人だった80年代初め、非正規労働者は一般的ではなく、雇用側は今の就活生が入社前に取得を求められているような知識、能力は、入社後、実践を経験させながら、研修や通信教育、時に留学などさせ(留学制度が昔からあったところは、まだ今も続いてあるでしょう。)身につけさせてくれました。
この80年代の形式は、景気が良い時代だったからこそ、できたことかもしれません。
そして、各々が身に着けられる能力、資格などについては、学生時代に身に着けておくのも、就職後に職場からの研修で身につけるのも、表面上は大差ないかもしれません。
また、欧米式のように、「ステップアップとしての就職」をし、「一つの会社でずっと働き続ける」ことを思わない就活生が一定数いるのも事実でしょう。
さらに言えば、「就職してまで勉強させられるなんていや。」と思う人も、これまた一定数いると思うので、必ずしも、80年代のような日本企業型の社員教育が良いかどうかは一概に言えないと思います。
ただ、こうした社員・職員教育をしてくれる企業や組織には、「その企業、組織の新人」である前に、「学生から社会人となったひとりの若者」としてサポートし、研修では身につかないマナー、コミュニケーション術、ときに、業務に直結しないことでも、時間を割いて教えてくれた上司や先輩がいる、という傾向があるのではないか、と思えるのです。
D氏がいう、「社員にお金をかけてトレーニングをさせること、これは育てること、それは日本の強み」というのも一理ありますが、そしてまた「社会人を上司や先輩が損得なしにサポートする」というのは日本以外ではあまりないことで、これこそ日本の強みになっていたのではないか、と思います。