三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

ミキ・デザキ『主戦場』

2019年07月30日 | 戦争

『主戦場』は、櫻井よしこ、杉田水脈、ケント・ギルバート、藤岡信勝、山本優美子、渡辺美奈、吉見義明といった人たちがミキ・デザキ監督のインタビューに応じ、慰安婦問題について語ります。

テキサス親父のトニー・マラーノ氏は風呂敷かぶせてなんとかのアメリカ版を楽しそうにしゃべってるし、マネージャーの藤木俊一氏は「フェミニズムを始めたのは不細工な人たち」と平気で言い切るし、カメラの前でそんなあからさまも女性差別を口にしていいのかと心配になるほどです、 https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/06/vs-23_3.php

加瀬英明氏が最後に出てきますが、あまりにもおバカなのにびっくり。
人の本は読まないと言うんですから。
吉見義明氏を知らないし、秦郁彦氏の本も読んでいない。
それでどうやって慰安婦問題を語ることができるのかと思います。
これだけホンネをよくもまあ引き出したもんだと、出崎監督の手腕には感心しました。

櫻井よしこ氏の後継者と言われていたケネディ日砂恵という女性の発言は重みがありました。
「花田編集長の右向け右!」には、ケネディ日砂恵氏のプロフィールに「慰安婦問題など歴史を素材にした反日言説・行動に疑問を持ち、日米文化の狭間で生きるなかでうまれた思索をフェイスブックで発信し、反響を呼んでいる」と書かれています。
https://www.genron.tv/ch/hanada/archives/live?id=130

ところが、そのケネディ日砂恵氏が肯定派に変わります。
それは秦郁彦氏の本(たぶん『南京事件』)を読み、南京で日本軍による虐殺が実際にあり、2~4万人は殺されていると思うようになったと語っています。
そうして、慰安婦問題についても考えが変わったというわけです。
ちなみに、デザキ監督は秦郁彦氏に出演依頼をしたけど断られたそうです。

ケネディ日砂恵氏は、あるジャーナリストが慰安婦問題の記事を書いたり調査をするために6万ドル渡したと語っています。
最初2万ドル、翌月2万ドルを要求され、というふうに。(交通費、宿泊費などは含まない)

さらには、このジャーナリストはブログに、櫻井よしこ氏から金をもらっていると書いているとケネディ日砂恵氏は話します。
このことの真偽をデザキ監督に問われた櫻井よしこ氏は「微妙な問題なので」とかわします。
この場面を見て、あまりにも言葉の軽い杉田水脈氏は櫻井よしこ氏の後継者にはなれないと思いました。 
 

藤木俊一氏たち5人が上映中止を求めて訴訟を起こしております。
慰安婦問題否定派が主張を述べた後に、反対側による反論で彼らの主張が間違っていることにされてしまい、しかも否定派の再反論の機会を与えていないという批判はたしかにその通り。
「月刊Hanadaプラス」に山岡鉄秀「従軍慰安婦映画『主戦場』の悪辣な手口」という記事があります。
ケネディ日砂恵氏の発言にも反論がなされています。
https://hanada-plus.jp/posts/1974

しかし、否定派の再反論には、当然肯定派も再再反論するだろうし、これではいつまで経っても終わらない。 ドキュメンタリーは中立ではあり得ないと思います。

性奴隷という言葉はおかしいんじゃないかと、私は思ってました。
奴隷というと、鎖につながれ、鞭で打たれているようなイメージがあったので。
しかし、「奴隷制というのは、人が別の人によって全的支配を受けることをいう。元慰安婦が高額の支払いを受けていても、外出をしていても、それは全体的な支配のもとで許可を得てそれができていたのだから、奴隷制ということになるんです」という説明に納得。
もちろん、別の定義をする人もいるでしょうが。

慰安婦像をあちこちに設置するのはやりすぎではとも感じていました。
これも、すべての性被害者を象徴するものであるなら、それもありかなと。

渡辺美奈さん(「女たちの戦争と平和資料館」事務局長)は「大きな人権団体などが、慰安婦問題についてレポートを書く、と。そのとき相談をされれば、20万人という数字は使わずにもう少しアバウトな数を使うことを勧めます。40万人と聞けば、40万人という数字を使おうと思うんです。わざわざどれが一番いいかと考えずに、多いほうを使うということも多分あると思うんですね」と言っています。
8歳から10歳の慰安婦がいたと演説する人の映像も出てきます。
どちらもが極論と誇張した話をしていたのでは、双方が折り合うことはないでしょう。

ケネディ日砂恵氏は次のように指摘します。

ナショナリストは、日本が弾圧されることで、自分の名誉を傷つけられたと感じる。だから自尊心を守るために、日本を擁護する。

 https://mainichi.jp/articles/20190426/mog/00m/040/004000c?pid=14509

ネット上では韓国へのむき出しの憎悪が目に余るほどです。
しかし、昭和天皇は1984年、全斗煥大統領を迎えての宮中晩餐会で、「今世紀の一時期において、両国の間に不幸な過去が存したことは誠に遺憾であり、再び繰り返されてはならないと思います」と遺憾の意を表しています。
1990年、宮中晩餐会で平成天皇は盧泰愚大統領に、「我が国によってもたらされたこの不幸な時期に、貴国の人々が味わわれた苦しみを思い、私は痛惜の念を禁じえません」と謝罪しました。
1996年、平成天皇は金大中大統領歓迎の宮中晩餐会のおことばで、「一時期、わが国が朝鮮半島の人々に大きな苦しみをもたらした時代がありました。そのことに対する深い悲しみは、常に、私の記憶にとどめられております」と述べています。
抽象的な言い方ですし、慰安婦問題に触れているわけではありませんが、過去の日本の罪を天皇は認めているわけです。

ハンス・ロスリング『ファクトフルネス』にこんなことが書かれています。

歴史を美化すればするほど、わたしたちや次の世代の人たちが、真実にたどり着けなくなってしまう。悲惨な過去について学ぶのは気が滅入るかもしれないが、真実を知るためには避けて通れない。 過去をきちんと学べば、昔に比べたら、いまがどれだけ恵まれているかに気づくこともできる。そして次の世代はきっと、前の世代と同じように、たまには一歩後退しても、長い目で見れば平和、繁栄、問題解決の道を歩むことができるはずだ。

 もちろん、慰安婦問題について論じた文章ではありません。
しかし、日本のマイナス面を語ることを自虐史観だと非難する人への批判としても使えるように思います。

もう一つハンス・ロスリングの言葉をご紹介。
1990年に、子供が命を落とす原因の7%がはしかだったが、現在は1%になった。
しかし、アメリカでは親の4%が子供への予防接種は大事ではないと考えている。
67カ国を対象にした調査でも、13%が予防接種に懐疑的で、フランスでは35%以上。

「どんな証拠を見せられたら、わたしの考えが変わるだろう?」と自分に聞いてみよう。「どんな証拠を見せられても、ワクチンに対する考え方は変わらない」と思うだろうか? もしそうだとしたら、それは批判的思考とはいえない。

 ワクチンを慰安婦問題と置き換えると、ぴたりと当てはまるように思います。

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