ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』は24編の短編が収録されています。
ルシア・ベルリンは1936年生まれ。
鉱山技師だった父の仕事の関係で、幼少期は鉱山町を転々とする。
父が出征したため、5歳の時に母の実家に住む。
祖父は酒びたり、母と叔父はアルコール依存症。
小学生の時、小学校の司書の財布を盗んだと誤解され、家に帰ると、母は本当に盗んだか訊きもせず、「よくもわたしに恥をかかせたね。この盗っ人!」と言って、ムチでたたいた。
財布を用務員が盗んだとわかっても、母は謝りもしなかった。
ルシア・ベルリンは3度結婚し、3回目の夫は薬物依存症。
1971年からカリフォルニアで暮らし、高校教師、掃除婦、電話交換手、ERの看護師などをして、息子4人を育てる。
このころからアルコール依存症に苦しむ。
1990年代に入ると、アルコール依存症を克服し、サンフランシスコ郡刑務所などで創作を教える。
ルシア・ベルリンの小説は、ほぼすべてが実人生に基づいているが、改変、誇張、編集がなされているし、完全なフィクションもあり、どれが本当のできごとだったかわからないと、あとがきにあります。
どの話もルシア・ベルリンと思われる人物が主人公ですが、「さあ土曜日だ」だけは受刑者の「おれ」が語り手なので、他の作品と肌合いが違います。
おれはミセス・ベヴィンズが先生の文章のクラスに入る。
ベヴィンズ先生は生徒たちにこう言う。
女装趣味者のヴィーがクラスに新しく入ってきた。
食パンの袋を留めるプラスチックのものを鼻輪みたいに1つ、両方の耳に20個ぐらいずつはめていた。
ヴィーの詩を聞き、みんなはヴィーを受け入れる。
ディキシーが「CDにはずば抜けて才能がある。そうでしょ、先生?」と言うと、ベヴィンズ先生は笑って言う。
「さあ土曜日だ」はルシア・ベルリンの刑務所での実体験が元になっていると思います。
寮美千子『空が青いから白をえらんだのです』を思い出しました。
寮美千子さんは奈良少年刑務所での社会性涵養プログラムの講師として、受刑者に詩を教えていました。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/c8643fa1f6c99edbc8500dcb60e0c083
ルシア・ベルリン先生が教えた生徒たちの文章を読んでみたいです。
町山智浩『最も危険なアメリカ映画』にこんなことが書かれています。
1963年、アラバマ州の教会(会衆は全員アフリカ系)が爆破され、4人の少女が犠牲になった。
1977年、ダイナマイト・ボブが起訴され、終身刑になる。
1985年に81歳で獄中で死亡するまで、ボブは後悔や謝罪、反省を口にしなかった。
2012年、ボブが獄中から妻に出した手紙が公開された。
誤字があったり、句読点がなかったりして、スペリングや文法のレベルは小学生以下。
ボブが黒人以上に恵まれない子ども時代を送ったのがわかる。
ボブは知能指数が39の黒人青年トミー・ハインズと二人房に入れられた。
ボブはハインズの面倒をかいがいしく見て、アルファベットを教えたり、食事や水分を与えるなどした。
妻への手紙にこんなことを書いています。
人間は変わるものだと思いました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます