「東京拘置所・衛生夫が語った「死刑囚」それぞれの独居房 第二弾」によると、4月に死刑執行された宮城吉英さんは再審請求をしていなかったし、暴力団員だったので、次は彼だと刑務官や衛生夫は予測していたという。
「宮城は大人しく、ほとんど文句を言わない死刑囚だった。いつも小説を静かに読んでいて、自らの罪を粛々と受け入れているようにも見えました。
その一方で、反省も謝罪の念の欠片もない死刑囚が、死刑回避のためだけに、無駄と思える再審を続け、命を永らえている実態がある。それに乗っかっているのが〝人権派〟の弁護士やNPOで、ある弁護士などは、フロアで再審請求をしている死刑囚5人ほどの担当に同時に就いていたくらい。「再審」であれば何でもやるということなのでしょう。そしてそうやって延命を図る死刑囚は、罪に向き合うこともなく、拘置所の待遇に文句ばかりを言って、毎日を過ごしているのです」
どの死刑囚が再審請求をしているのか、どの弁護士に依頼しているのか、そういったことを衛生夫はどうやって知ったか不思議である。
「もちろん死刑を執行することは大変な決断でしょう。しかし、野放図に死刑確定囚が増え続ける状態を放置しておけば、いつか大きな問題が生じるのは明らか。法務大臣は腹を括ってきちんと自らの職責を遂行すべきだと思います」
死刑囚は大人しく死んでいけ、法務大臣はどんどん執行しろ、というわけである。
「自らの体験を振り返り、衛生夫は切々とそう語るのであった――」
衛生夫ではなく、「週刊新潮」の公式見解だろうけど。
死刑確定囚が増え続けるのは、厳罰化によって以前だったら死刑にならなかった事件でも死刑判決が出るからであって、凶悪犯罪が増えているからではない。
死刑囚を減らしたければ、死刑を廃止するなり、恩赦で減刑するなりすればいい。
再審請求が認められることがほとんどないから、「無駄と思える再審(ママ)」になるわけで、これまた死刑囚や弁護士の責任ではない。
それに、再審請求をすることが悪いことのように言うが、元衛生夫や「週刊新潮」の記者も袴田巌さんをさっさと執行しろとはさすがに言わないだろうと思う。
他の再審請求をしている死刑囚だって、本当に冤罪や一部冤罪の人がいるかもしれない。
また、再審請求で弁護士がもうけているわけではなく、多くは手弁当である。
デイビッド・T・ジョンソン「無実の人や、死には値しない人たちを死刑にすることなく、ごく稀に、かつ、的確な対象だけを死刑にするような制度を構築することは不可能だ」(福井厚編著『死刑と向きあう裁判員のために』)
おとなしく執行されることが「罪に向き合う」ことではないと思う。
連続殺傷事件で2013年に執行された金川真大さんは、死刑になりたくて事件を起こしている。
2011年の確定死刑囚に対するアンケートへの回答に、
「こうして生きてることは、時間のムダ、税金のムダ。
法務省の人間を皆殺しにしてやりたいね。
死刑執行は6ヶ月以内。守られていない。
テメエで作った法をテメエで守らないのはバカだ
どのツラさげて悪人を裁くんだ?」
と書いている。
弁護人の山形学弁護士は「金川君の死刑執行に関して」(「フォーラム90」VOL.128)というメッセージの中でこんなことを書いている。
「金川君に死刑判決を与えたこと、及び、これほど早く死刑を執行したことは国家の刑事政策全体として誤りだったと思っています。
彼は心底死刑を熱望しており、その思いには寸分の迷いもありませんでした。彼は死刑になってもいいと思って犯罪を犯したのではなく、死刑になるためだけに犯罪を犯したのです。その彼を死刑にすることは、刑務所で生活したくて犯罪を犯した人を刑務所に入れるのと同じであり、ひょっとしたら、金が欲しくて強盗をした人に罰として金を与えているのと同じであるとさえ言えるかもしれません」
金川真大さんにとって、死刑は罰ではないのである。
「罪に向き合うこともなく」と衛生夫(記者?)は言うが、では法務省や拘置所は死刑囚が罪に向き合うために何をしているのだろうか。
日本では、死刑囚は独房から出ることはあまりなく、外部交通は極端に制限され、人と話をする機会も少ない。
国連から死刑囚の処遇に関する勧告を受けているほどひどい状態に置かれている。
「文句ばかり言う」のも仕方ない状態なのである。
衛生夫だって死刑囚とそんなに会話はできないはずである。
反省しているかどうか、罪に向き合っているかどうか、衛生夫にはたしてわかるのかと思う。
一人でやれることには限りがある。
人の命を奪った罪に向き合うためには、他者との関わりが必要だと思う。
「週刊新潮」なり衛生夫は何かいい方法があるのかを聞かせてもらいたい。
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刑務所にいるよりも楽で、仮釈放にも有利。
「週刊新潮」の記事は元衛生夫の話に記者の主観がかなり入っていると思います。