三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

瀧本智行『イキガミ』

2008年10月23日 | 映画

昨年のことだが、『恋空』という映画を次女(中1)が見に行ったので、感想を聞くと、「テレビで充分だと思った」とのこと。
この映画、原作はケイタイ小説なのだが、私はケイタイを持っていない。
長女(高1)にケイタイ小説をどう思うか聞いたら、「みんな同じ。最後に死ぬ」んだそうだ。
どうやら『愛と死を見つめて』と同じパターンの小説が大量生産されて、なぜか売れているらしい。

この手のお話は、観客や読者がこの人は必ず死ぬと知っているのだから、それまでどう生きるか、どういうふうに死んでいくのか、それによっていかに泣かせるかが腕の見せどころである。
瀧本智行『イキガミ』は、あと24時間で必ず死ぬことがわかった人がその時間をどう過ごすかという映画である。
瀧本監督の第1作『樹の海』は、富士の樹海で自殺しようとする人たちを描いたもので、これも生と死がテーマである。
『樹の海』では4つのエピソードが語られるが、『イキガミ』は3人と1人のエピソードというふうに構成も似ている。

もっとも話の中身は全然違う。
『イキガミ』は若い国民の命を奪うことによって命の尊さを教え、そうして国家を繁栄させるという「国家繁栄維持法」が作られている国の話である。
小学校入学時に予防注射が義務づけられている。
その予防接種の中には、1000人に1人の割合でナノカプセルが入っており、18歳から24歳までのあらかじめ設定された日時に命を奪われる。
本人には死亡予告通知書である「イキガミ」が死の24時間前に届けられ、その時刻に必ず死ぬ。
「イキガミ」を配達する役人と、「イキガミ」を手にした3人のお話である。

極限状態に陥った人がどう行動するかということがテーマということでは、深作欣二『バトル・ロワイアル』も同じ。
もっとも『バトル・ロワイアル』では殺し合いをさせる社会についてはほとんど触れておらず、どうやって生き延びるかだけが描かれていた。
しかし、『イキガミ』はこうした制度を作った管理国家(アンチユートピア)への批判がなされている。

その批判は戦争や死刑制度への批判とつながる。
「国家繁栄法」ではなく「治安維持法」を連想させる「国家繁栄維持法」、死亡予告書が「赤紙」ならぬ「イキガミ(逝紙)」、「国家の繁栄の礎となって名誉の死を遂げられた方」というセリフなど、イキガミによって死ぬ人たちは戦死者を連想させる。

しかし、戦争の場合、生きて帰る可能性がある。
だが、イキガミをもらった人は100%死ぬ。
つまり、ある種の死刑である。
日本では、「人の命をもっとも大事だと思って尊ぶからこそ死刑という制度があった」という発言をした人が称賛され、社会の秩序を守るために死刑は必要だという主張がなされる。
死刑は命の尊さを教え、社会秩序を守っているという考えは、「国家繁栄維持法」と同じ発想である。

原作者の狙いが、死を目の前にした人が最後をどう生きるかということにあるのか、それとも国家のために国民の命を奪う社会(アンチユートピア)を批判することにあるのか、原作を読んでないのでそこらはわからない。
ブログをあれこれ見てみると、前者の感想を書いているものがほとんどのようである。
戦死とか死刑を連想しないのだろうかと思う。

日本の死刑・代用監獄に批判相次ぐ 国連規約人権委審査
ジュネーブの国連欧州本部で開かれていた国連規約人権委員会の日本に対する人権状況審査は16日、2日間の日程を終えた。質疑では死刑や代用監獄制度などをめぐり、委員から「10年前(前回審査)の問題提起に十分対応していない」などといった批判が相次いだ。
(朝日新聞10月17日)
日本は人権保護状況に問題がある、と考える日本人はあまりいないのではないか。
ネットでは「内政干渉だ」という意見もあるが、その人たちは冤罪の温床である代用監獄制度がどういうものか知っているのだろうか。
「国家繁栄維持法」のような法律が作られても、それを当然のこととして疑問を持たず、国連や外国から批判されたら怒る人が結構いるんじゃないかと思う。

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3 コメント

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Unknown (サトシ)
2008-10-25 21:41:49
また見させていただきました!
応援ポチッ!!!
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Unknown (星新一)
2009-05-20 20:11:09
ヨーロッパの考え方が「最先端で正しい」なんて考えたら、大きな間違いです。えーっと、ほんの60年くらい前ですか、ヨーロッパはアフリカのほとんどすべてを植民地にしてましたからね。
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代用監獄もOK? ()
2009-05-21 08:14:22
60数年前、日本は……、というので、日本は人権を大切にする国になりました、というのであればいいんですけど。
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