『ウルティマ、ぼくに大地の教えを』はメキシコ系アメリカ人のルドルフォ・アナヤが1972年に書いた小説です。
1945年ごろのニューメキシコ州を舞台に、7歳の少年アントニオのまわりに起きる出来事をめぐる物語。
父親の家系はヤノ(大草原)で馬に乗って牛飼いをしていた。
農家に生まれた母親はアントニオが神父になるのが夢。
家族はスペイン語を話す。
町の人たちはほとんどがカトリックで、子供たちもカトリックでなければ地獄に堕ちると信じている。
年老いた呪術師のウルティマはアントニオ一家と一緒に住むようになる。
母方の伯父たちは、呪いをかけられて死にかけた弟を助けてもらったのに、ウルティマが襲われた時に助けようとしない。
人々を救うにもかかわらず非難されるウルティマはイエスを連想させます。
アントニオは黄金の鯉を見に行き、友達からこんな話を聞く。
大地がまだ若いころ、鯉を食べることが禁じられていたのに、飢えに襲われた人々は鯉をつかまえて食べた。
神々は罪を犯した人間達をすべて殺そうとしたが、人間を愛していた神が反対し、人間達を鯉に変え、川の中で暮らすように決めた。
人間を愛していた神はとても大きく金色の鯉に姿を変え、人間達の世話をすることにした。
唯一神のキリスト教とは違う神様です。
もし古い宗教が、その信者の疑問に答えられなくなったら、それはその宗教が変わるべき時がきたということなのかもしれない、とアントニオは考えます。
同級生のフロレンスは神を信じていない。
フロレンス「母さんが死んだとき、ぼくは三歳だった。父さんは飲み過ぎて死んで、それで。姉さん達は売春をやってて、ロージーの店で働いているんだ……。
それで自分で考えたんだ。幼い子供にこんなつらい思いをさせて、神様は平気なんだろうかって。ぼくはこの世に生んで下さいなんて頼んだわけじゃない。神様が勝手にこの世に送りだし、魂を吹きこみ、ぼくを罰する。なんでだ? ぼくが神様に何をした。なんでこんな目に合わなくちゃいけないんだ、ええ?」
ぼく「もしかしたら、神父様のいったとおりなのかも。神様はぼくたちの前に、乗り越えるべき障害をお置きになったのかもしれない。そしてぼく達が、そのつらくて苦しい障害を乗り越えたとき、良きカトリック教徒になり、天国で神様とともにいる権利を与えられるのかも」
フロレンス「それも考えてみたんだ。だけどやっぱり、こうなるんじゃないかなあ。つまり、もし神父様のいうように神様が賢いのなら、ぼく達が良きカトリックかどうかなんて試す必要はないはずだ。それにさあ、まだ何も知らない三歳の子供を試してどうするんだよ。神様は全知全能だということになってる。それはそれでいい。だけど、じゃあなんで、悪いものやいやなものなしでこの地球を作らなかったんだろう? なんでたがいにいつも親切でいられるようにぼく達を作らなかったんだろう?(略)泳ぎにいくと何人かは小児麻痺になって、死ぬまで体が自由に動かなくなってしまう! それって正しいことなのか?」
ぼく「わからないよ。昔はすべてがうまくいっていたんだ。エデンの園では罪もなく、人間は幸せだった。だけど、ぼく達人間が罪を犯してしまったから……」
フロレンス「ぼく達が罪を犯したって? ばかばかしい。罪を犯したのはイヴだろ。イヴが掟を破ったからって、なぜぼく達が苦しまなくちゃいけないんだよ、ええ?」
ぼく「ただ掟を破っただけじゃないんだ。ふたりは神様のようになろうと思ったんだ! 覚えてないかい、ほら、神父様がいってたじゃないか。あのリンゴには知恵が詰まっていて、それを食べると、いろんなことがわかってしまうって。そして神様みたいに、善と悪について知ってしまったんだよ。だから神様はふたりを罰した。それはふたりが知恵を欲したからなんだ」
フロレンス「それもおかしくないか? なぜ知恵を求めることが人を苦しめることになるんだ? ぼく達が学校にいくのだって、勉強をして知識を得るためだし、公教要理に通うのだって、知識を……」
ぼく「もしぼく達が知識なんか持ってなかったら、どうだろう?」
フロレンス「野原にいるばかな動物達と同じになっちゃうんじゃないか」
神の沈黙ということです。
恵み深い全知全能の神がどうして幼い子供を罰するのか、どうして神は不幸や災厄に何もしないのか。
フロレンスの疑問にアントニオは答えることができません。
最新の画像[もっと見る]
- 植松聖「人を幸せに生きるための7項目」 4年前
- 植松聖「人を幸せに生きるための7項目」 4年前
- 植松聖「人を幸せに生きるための7項目」 4年前
- ボー・バーナム『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』 5年前
- 森達也『i -新聞記者ドキュメント-』 5年前
- 日本の自殺 5年前
- 日本の自殺 5年前
- アメリカの多様性 5年前
- 入管法改正案とカファラ制度 6年前
- マイケル・モス『フードトラップ』 6年前
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます