三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

ジェフリー・S・ローゼンタール『それはあくまで偶然です 運と迷信の統計学』

2023年07月31日 | 

ジェフリー・S・ローゼンタールは統計学の教授です。
『それはあくまで偶然です』は統計学がいろんなことを教えてくれることをわかりやすく説明しています。

人は偶然に起きた出来事を何らかの原因によって必然的に起こったと錯覚しがち。
迷信、占星術、超科学、宝クジの予想が当たるとか思いますが、それも錯覚がほとんどです。

銃で遠くの的に弾を当てたとして、その人の銃の腕がいいとは限らない。
まぐれ(偶然)だったり、数多く撃ったり(下手な鉄砲も数打ちゃ当たる)、的が大きかったり、ウソの報告なのかもしれない。

ある自然医療で10人のガン患者が治ったとする。
しかし、それだけでは効果があったことにはならない。
10人は治ったが、100人は治らなかったかもしれない。
他の原因で治ったかもしれない。
治ったと思っただけで、実は治っていないのかもしれない。
治った10人に副作用や後遺症があったかもしれない。
その治療法を信奉して死亡した人は、死んだことを報告できないから、治った話ばかりを耳にすることになる。

自分のことを言い当てられたと感じさせる言い方をストックスピールという。
「あなたは裏切られた経験がありますね」
「あなたは嘘をついて人を傷つけた経験がありますよね」
「あなたは型にはまりすぎていなければ、個性的でありすぎるわけでもないでしょう」
「あなたは幅広い関心を持っています」
「あなたは自分について他人に正直に明かしすぎるのは賢明ではないと知ってますね」
「あなたは一定の変化や多様性を好みます」
「あなたは自分に批判的な見方もできる人です」
こうした誰にでも当てはまることをもっともらしく言うのは霊能者や占い師のトリックの一つ。

夢のお告げは、当たった時のことだけを覚えていて、はずれたのは忘れる。
偶然の一致にすぎないのに、関係ない出来事を関係あるように思い、神の配慮、運命といった意味を見出して一喜一憂する。

40人のクラスで自分と同じ誕生日の人がいる可能性は10%。
宝クジで一等賞を手にするよりも、宝クジを買いに行く途中で死ぬ可能性のほうが高い。
統計学によれば、近年の地球の温度の上昇はたまたまではない。

2021年、殺人は10万人あたり、アメリカで6.81件、フランス1.14件、英国1.00件、ドイツ0.83件、韓国0.52件です。
日本の殺人件数は年に874件で、10万人あたり0.23件。
世界177か国のうち、日本の殺人発生率は171位。

飛行機に乗って死亡する確率は3000万分の1。
交通事故による死者数は2022年では2610人で、飛行機より自動車のほうが死亡する率が高い。

身代金目的など悪意を持った人に誘拐される子供は50万人に1人。
子供の誘拐、テロ、ビルの爆破などがニュースになるのは、そうしたことが起こるのがまれにしかないから。
だから、犯罪や事故に巻き込まれることを過剰に心配すべきではない。

アメリカの科学アカデミーの会員で、人格神の存在を信じる人は7%。
イギリスの王立協会のフェローの64%が神が存在するとはまったく思っておらず、存在するという考え方に強く賛成する人は5%。
アインシュタインは「人間は、もし死後の罰への恐れや報いへの期待に縛られていたら、じつに哀れむべき状態になるだろう」と言っている。
ローゼンタール自身も宗教を持っておらず、死後の生を信じていないと明言しています。
ある講演会でのエピソード。

主催者が高齢の夫婦を紹介してくれた。
この夫婦は最近、息子をガンで亡くした。
息子は最後の日々を確率に関するローゼンタールの本を読むことで慰められていた。
なぜか。

罰ではなかった。
過失でもなかった。
自分がしたことやしなかったことのせいではなかった。
自分が悪い人間だったからでも、死んで当然だったからでもなかった。
ガンになったのは、ただのランダムにすぎなかった。

何かが私たちの過失ではないとき、そうと気づく助けとなりうるのだ。私たちは、自分の不運には特別な意味がないと悟ることができれば、その不運について自分を責めるのをやめられるかもしれない。過失を問われることはないから。


ガンになったのは、あなたのせいだ(邪教を信じている、前世の報い、先祖供養をしないなど)と責める宗教が少なくありません。

訳者あとがきにこうあります。

ある人が、本人には何の責任もない幸運あるいは不運に見舞われるのは、まったく偶然であり、本人に責任がない以上、そこになんの因果もない。そう承知しつつも、我々人間は、そうした出来事に何らかの意味を加えることで、ときに慰められ、また気持ちの整理をつけて暮らしている。
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