三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

アメリカの権利 1

2012年07月31日 | 戦争

ダグラス・ラミス氏は『要石:沖縄と憲法9条』でこんなことを言っている。
オバマが大統領に就任して間もなくノーベル平和賞を受賞した。
しかし、パキスタンにいたビンラディンを裁判にかけることをせずに暗殺した。
アメリカは他国の主権を侵害できる、国際法を無視してもいいとしたブッシュ(息子)の行動にオバマは従ったと、ダグラス・ラミス氏は指摘する。

9.11以降、アメリカ政府は自分たちに三つの権利があると言い出した。
「第一は、先制攻撃を行う権利。次に、外国の政府を交代させる権利。第三に、一度もアメリカに入ったことのない外国人を逮捕・監禁し裁く権利」
この三つの権利に基づいてアメリカは行動している。
先制攻撃とは体のいい侵略戦争だし、政権交代の強制は「内政干渉」である。
ただし、9.11以前からアメリカは三つの権利を行使していた。


アメリカは反植民地主義の伝統があるというタテマエだが、その一方でアメリカにとって都合悪い政権(親ソと見なした政権など)が誕生するとつぶしにかかる。

「地歴高等地図」(平成19年度版)のアメリカ大陸中央部の地図には、「アメリカ合衆国のおもな介入(19~20世紀)」の矢印がある。

メキシコ 1913~18年

ホンジュラス 1903~25年 1983~89年
グアテマラ 1954年 1966~67年
エルサルバドル 1932年 1981~92年
ニカラグア 1912~33年 1981~90年
パナマ 1901~20年 1989~90年
キューバ 1898~1902年保護国化 1917~33年 1961~62年キューバ危機
グレナダ 1983~84年
ハイチ 1915~34年 1994~96年
ドミニカ 1903~04年 1916~24年 1965~66年

これらの国では、それ以外の年には民主的な政権だったかというと、もちろんそうではなく、親米独裁政権である。

どうしてフセインとカダフィとアルカイダがだめで、サウジアラビアなどの王国ならいいのか。
アフリカの独裁国家には目をつむるのはなぜか。
独裁者とアメリカ企業がもうかる仕組みだからである。

デイビッド・ハルバースタム『ベスト&ブライテスト』にこんなことが書かれてある。
31年間、独裁体制で国を私物化したドミニカ共和国のトルヒーヨ大統領が1961年に暗殺された。
「ロバート・ケネディを頭としてマクナマラその他二、三の有力者からなるグループは、早急に、だが限定的な介入を計るべきだと考えた。彼らは、CIA諜報員から、介入があればそれに呼応し、然るべきドミニカ人を中心とした大衆運動を組織し共和国を共産主義者の手から守る、という連絡を受けていた。
国務長官代理を務めていたボールズは、彼らの企てが非合法であると感じ、そのような介入に反対した。彼らが、事は緊急を要すると主張したのに対し、ボールズは、いましばらく事態の推移を見守るべきだと論じた。ここに及んで、当時まだあの横柄な態度をとり続けていたロバート・ケネディは、ボールズが根性のない骨なし野郎だという軽蔑の言葉を、雨あられのように浴びせかけ、周囲の人びとの眉をひそめさせたのである」
ロバート・ケネディがこんな人だとはがっかり。

1965年4月、ドミニカ共和国の独裁政権に左翼勢力が立ち上がると、ジョンソン大統領は迅速な行動に出た。
「ドミニカの情勢が十分確認されていないにもかかわらず、アメリカ大使が暴動を大げさに報告し、反政府勢力は共産主義者が牛耳っているというまったく根拠のない情勢分析を伝えるや、ジョンソンは武力行使を即決した。政府首脳でこれに反対したものは一人もいなかった。また、第三国にアメリカが武力介入する法的根拠がないと主張するものも一人もいなかった。武力行使は徹底したものであった。海兵隊ばかりではない。空挺部隊も参加し、総兵力二万二千がドミニカに送り込まれた。反乱がどのような性格のものであったにせよ――アメリカ政府はその点について確実な情報を持っていなかった――それは鎮圧された。
アメリカの腕力がことを決したのである。もちろん、左翼からの抗議はあった。このような冒険に不安を感じる人びとも文句をつけた。だがジョンソンは、それらの声にまったく耳を傾けなかった。目的は達せられたのだ。暴動は鎮圧されたのだ」

ドミニカで起きたことはほんの一例である。
その国の国民の幸福のためではなく、アメリカ企業の利益を優先する。
「問題なのは、現地の人びとに何がよいことかという純粋な問いではなく、何がアメリカにとって都合よく、同時に現地でも受け入れられるかという発想をするところにあった」

それでも、1961年のキューバ侵攻作戦をフルブライトは道義的な理由から反対している。

「フルブライトは主張した。この種の隠微な行動に出ないところに、われわれが民主国家としてソ連との違いを誇りにできる点があるのでないか。「カストロ政権打倒のために、直接的行動に出るのは言うに及ばず、それを背後から支援することについても、もう一点つけ加えたい。そのような支援は、アメリカの国内法、およびアメリカが締結している諸条件の精神、そしておそらくその文言にも、抵触するものと思われます。たとえ隠密裡であれ、この種の行動に対する支持は、国連その他の場で常にアメリカがソ連について非難する偽善と冷笑的行為に他なりません。この点は、世界も見落とさないでしょうし、われわれの良心も黙視できないところであります」」
だけど、いまだに同じことが繰り返しているのはご存じのとおり。

グアテマラの独裁政権に立ち上がった先住民族たちの記録である、ジェニファー・ハーバリー『勇気の架け橋』を読んだのは十年ちょっと前だが、本当に感動した。
1954年、ユナイテッド・フルーツというアメリカのバナナ会社を保護するために、アメリカは軍事クーデターを起こして、政権を転覆させた。
チリのアジェンデ政権と同じことをしたわけである。
その後、グアテマラの親米独裁政権は何十年も富を独り占めし、国民を弾圧し、先住民を迫害した。
ゲリラと見なされた人は拉致されて拷問。
約800万人の人口のうち、20万人が虐殺されたという。
こんなひどいことが行われていたのを知らなかったことに恥ずかしい思いをした。

あるゲリラの言葉「自分はもっとも幸運な人間だと思う。もし、生きて戦いの最後を見届けられなくても、自分には達成感がある。自分や仲間たちは架け橋としての役割を果たしたのだから。ひどい過去から、ひどいことがもう二度と起きない未来への架け橋としての」

ジェニファー・ハーバリーには『エヴェラルドを捜して』という本もあり、いつか『勇気の架け橋』と合わせて紹介したいです。

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11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
千の風になって (となりのみよちゃん)
2012-08-01 02:23:48
この歌はとてもヒットしました。これについてはいろいろ言われているようですが、新井満さんは幕末の歌人「橘曙覧」をよく研究しているようです。

ところで、ストロング女史や、ノーマン・ベチューンのことはどう思われます?
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と言われても ()
2012-08-02 22:06:52
「千の風になって」はあまり好きじゃないんですよ。
歌は特に。

>どう思われます?
知らない人の名前を挙げられても・・・
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アメリカの強み (となりのみよちゃん)
2012-08-03 01:27:36
たとえば中国は国境を接するところで争いが絶えないでしょ。でも、アメリカはそれほど、そこに注意を支払わなくても済むと思うのです。9・11は悲惨でしたが、アメリカ本土が外敵の脅威にさらされたのは、そうないのでは?
アメリカのお得意分野は、軍事技術を転用したものばかり。
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日本は? ()
2012-08-03 19:51:34
中米はアメリカにとっての内庭みたいなもんでしょ。
東欧がソ連のテリトリーのように、国境の外側にもう一つ国境を作っている。
中国は国内にウイグルやチベットなどを抱えてますから。

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日本の強み (となりのみよちゃん)
2012-08-03 20:21:16
実は金がどこかに埋蔵されていて、資源が豊富らしいです。
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資源があっても ()
2012-08-04 16:35:58
アフリカ諸国で石油が発掘されても、国民は少しも豊かになりません。
お金をどう活用するかでしょ。
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活用方法は (となりのみよちゃん)
2012-08-04 18:25:15
誰が考えているのですか?極めて素朴な疑問です。
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トップでしょ ()
2012-08-05 17:22:39
政治家なり企業が、国民のために、です。
教育、医療などに石油などの収入をあて、国民の生活を向上させることは可能なはずです。
ユニセフや国境のない医師団にまかせなくてもいいでしょ。
でも現実は、一部の人間と外国資本がごっそり持っていくし、政治は腐敗するし、環境は汚染されるし、反政府ゲリラと称する山賊は跋扈するし。
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話とんじゃうけど (となりのみよちゃん)
2012-08-05 18:33:02
ナチスドイツのある人がこう言ったそうですね。
百人の死は悲劇だが、百万人の死は統計だって。

一人の沈黙は拒否とみなされ、一億人の沈黙は支持とみなされるのでしょうか?
トップについて、いけないと思ったことは、黙っていないで意見を言える人になりたいです。
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アイヒマンですね ()
2012-08-06 12:16:10
『チャップリンの殺人狂時代』の有名なセリフ。
「一人殺せば犯罪者だが、100万人殺せば英雄か」

野田首相が反原発デモの代表者と会うそうですね。
数は力になります。
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