三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

『玉耶経』

2023年07月23日 | 仏教

『仏典説話全集』(昭和3年)を読んでいたら、『玉耶経』の話がありました(井上恵宏訳)。

給孤独長者が息子の嫁に玉耶という貴族(長者か)の娘を迎えた。
玉耶は容姿端麗で天女のような美人だったが、自分の美貌を恃んで驕豪傲慢で、舅姑や夫に仕えることをしなかった。
給孤独は玉耶の慢心を正さなければと、釈尊に来てもらう。
釈尊は玉耶に「婦人は自分の顔形の端正婉麗なことを鼻にかけてはいけない。容姿の美しいことが真の美人とはいえない。心がけが正しく、人に愛され敬われる人を真の美人という。顔形の美しいことを自慢にして好き勝手な行いをするなら、後世には卑賎の家に生まれて婢となるから、心をつちかうようにしなければならない」と語った。
そして、三障十悪、五等、五善三悪を説いた。

ネットで『玉耶経』の翻訳を調べると、住岡夜晃「女性の幸福」がありました。
http://tannisho.a.la9.jp/YakoSnsyu/Josei(4)/4_3_4.html
三障十悪、五等、五善三悪について、井上恵宏訳を住岡夜晃訳で補って紹介します。

三障
① 女性は幼少の時には父母に障えられる。
② 嫁に行ったら夫に障えられる。
③ 年老いたら子に障えられる。

住岡夜晃訳には三障はありません。
三障とは三従のことだと思います。
三従は『マヌ法典』と『儀礼』にあって、「婦人は幼にしてはその父に、若き時はその夫に、夫の死したる時は子に従う」というものです。
「障える」は「さまたげる」「邪魔をする」という意味なので、女性は父、夫、子供に邪魔されながら生きなければいけないという意味だとしたら、ちょっと面白いです。

十悪
① 女の子が生まれると父母が喜ばないこと。
② 娘は父母が一生懸命に養育しても、その育て甲斐がないこと。
③ 娘の嫁入りについて、父母は心配せねばならないこと。
④ 女性はその心が常に人を畏れるということ。
⑤ 生みの父母と生別せねばならないこと。
⑥ 成長の後は、その身を他家に嫁がせねばならないこと。
⑦ 妊娠せねばならないこと。
⑧ 子を出産せねばならないこと。
⑨ 常に夫に気がねしなければならないこと。
⑩ 常に婦人は自由を与えられないこと。
この十のことは、どんな婦人でも本来もっている特性である。

結婚、妊娠、出産が悪だとされています。
自由が与えられないということは、父、夫、子供に束縛されるという三障に通じます。
十悪とは、女であることの悪ではなく、社会の習慣が生み出している悪に女性が苦しむという意味だと解釈しておきましょう。

五等 婦人の践むべき道
① 母婦
夫を愛することが母が赤子を愛護するようにするのをいう。
② 臣婦
臣下が君主に仕えるように夫に仕えるのをいう。
③ 妹婦
兄のように夫に仕えるのをいう。
④ 婢婦
婢のように夫の奉仕するのをいう。
⑤ 夫婦
永く父母を離れて、形は異なっていても、心を同じくして、夫を尊敬して、決して驕慢の情を起こさず、家の内外をよく治め、賓客に応接し、家産を殷盛にして、夫の名を揚げる。

住岡夜晃訳は、七婦の説をさとした、とあります。
七種の婦(おんな)
① 母のごとし
母婦 夫を愛念すること慈母のごとく、昼夜そのそばに侍べって離れず、食物や衣服にも心をこめて供養し、外で夫があなどられることのないように、うまず厭わず、夫をあわれむこと母のごとくする。
② 妹のごとし
妹婦 夫につかえること、妹の兄におけるがごとく、誠をつくし、敬い尊び、異体同心、みじんの隔てがない婦のことである。
③ 善知識のごとし
善知識婦(師婦) 愛念、ねんごろにして、恋々としてあい捨てることあたわず、何事も打ち明けてその間に秘密のことなからしめ、もし夫に過失があれば、教え呵めて、これを繰返すことのないようにし、よいことがあれば、それをほめ敬って、さらに善事にむかわせ、相愛してゆくこと、善知識が人を導くような態度をもって夫に侍じするのが、善知識婦である。
④ 婦のごとし
婦婦 親には誠をもって供養し、夫につかえて、へりくだってその命に従い、早く起きおそくねて身口意の三業をつつしみ、なおざりでなく、よいことはほめ、あやまちは自分の身にきて、人たるの道を歩み、心ただしく婦としての節操を持って欠くところなく、礼を守り、和を尊ぶのが婦婦である。
⑤ 婢のごとし
婢婦 常に自ら慎んでたかぶらず、まごころあり、言葉柔らかに、そまつでなく、性はやわらかく、横着でなく、心を正しく、礼をもって夫につかえ、それを受け入れられても、たかぶることなく、たとえ受け入れられなくても恨みもせず、むち打たれても、ののしられても、甘んじて受けて恨まず、夫の好むところは勧めてやらせ、嫉妬せず、冷たくされてもその非を口にせず、貞操を守り、夜食の善悪を言わず、ただ自分の足らないことを恐れて夫につくすこと、下婢が主人にするようなのが婢婦である。
⑥ 怨家のごとし
怨家婦 夫が喜ばなければ、これを恨みいかり、昼夜に夫とわかれようと考え、夫婦の心のないこと一時の客のごとく、犬のほえるようにけんかしておそれず、頭を乱して臥て、つかわれない。家を治め、子を養育する心なく、他に対してみだらな心をおこして恥とせず、自分の親里すらそしって犬畜生のように言う。いっさいがかたきの家にいるような生活態度だから怨家樹というのである。
⑦ 奪命のごとし
奪命婦 夫に対していかりの心をもって昼も夜もこれに向かい、なんらかの手段で夫から離れようとし、毒薬を与えたら人に知られはしないかと恐れ、親里にゆけば、あちこちに立ち寄り、夫を賊することをなし、夫が財宝をもっておれば人を雇ってこれを奪いとり、あるいは情夫を頼んで殺そうとする。夫の命をうらみ、しいたげ奪うから、奪命婦というのである。
①~⑤が五善、⑥⑦が三悪になるわけです。

五善
① 婦人は、夜は遅くに眠りにつき、朝は早く起きて、衣髪を整え、家事をし、おいしいものはまず舅姑や夫に勧めるようにする。
② 家の品物や家財をよく管理し、失わないようにする。
③ 自分の言葉を慎んで怒ったり恨まないようにする。
④ 常に自分を戒め、及ばないのを恐れるようにする。
⑤ 一心に舅姑や夫に仕え、家名を高くし、親族を喜ばせ、人にほめられるように心がける。

三悪
① 日が暮れないのに早く寝て、日が高く上がっても起床せず、夫に怒られると、かえってその叱責を嫌悪することがあれば、婦道にもとった悪事である。
② 美味は自分が先に食べ、悪い味のものを舅姑や夫に勧め、夫以外の男に心を向けて、妖邪の念を抱くのも悪事である。
③ 生活経済を念頭に置かず、遊蕩にふけると同時に、人の長所短所を探したり、好醜を言って、言葉を慎むということをせす、争いを好み、ついには親族から憎まれ、人々から賎しまれるのも婦道に背いたことである。

住岡夜晃訳の五善三悪は少し違います。
五善
① 妻たる者は、晩おそく臥し、早く起きて、髪かたちを整え、食事するにも目上の者を先にして、心からこれに従い、もしうまいものがあったら、目上にまず供えよ。
② 夫にしかられても恨みをいだいてはならない。
③ ただわが夫のみを守って、みだらな念を抱かぬこと。
④ 常に夫の長生きを願い、夫が外に出た時は、家中を整頓すべきである。
⑤ 夫の善を思って、悪を思わぬこと。

三悪
① 親や夫に礼を守らず、おいしいものを早く食べたがり、早く寝ておそく起き、夫が教えしかると、夫をにらみつけ、これをののしる。
② 夫のみを思わないで、他の男のことを思う。
③ 早く夫を死なせて、さらに他に嫁かそうと考える。以上が三悪である。」
http://tannisho.a.la9.jp/YakoSnsyu/Josei(4)/4_3_4.html

齊藤隆信「女性徳育と『玉耶女経』の韻文」によると、5本ある『玉耶経』の一つは『増一阿含経』のものです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ibk/59/1/59_KJ00007115332/_pdf/-char/ja

原始経典の時代から女性のあるべき姿が説かれていたわけです。
では、舅や姑、夫はどうあるべきかを説いた経典があるのかと思いました。
仏教と道徳との関係もどうなんでしょうか。

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