三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

藤原聖子『世界の教科書で読む〈宗教〉』(1)

2015年10月21日 | 

藤原聖子『世界の教科書で読む〈宗教〉』は、9カ国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、トルコ、タイ、インドネシア、フィリピン、韓国)で使われている宗教の教科書を紹介しています。
外国では、他人の宗教を認めるような教育をしているのか、それとも否定するよう教育しているのか。

欧米はキリスト教の信者が多く(実際に教会に定期的に通う信者はそれほど多くはない)、トルコは国民の約95%がイスラム教徒、タイは約95%が仏教徒、インドネシアは90%近くがイスラム教徒、フィリピンは90%以上がキリスト教徒で、そのうちカトリックが約82%。

韓国だけが、仏教が22%、プロテスタントが18%、カトリック10%、無宗教が46%と、一つの宗教が大勢を占めているわけではない。

公立校にも宗教科の授業がある国があり、宗教科の授業には「統合型」と「分類型」の二種類ある。

統合型は、クラスの中にいろんな宗教の生徒も無宗教の生徒もいる。
分離型は、宗教別に授業が行われる。

アメリカは憲法上は政教分離制で、日本よりも厳格で、公立校ではクリスマス・パーティーはしない。


イギリスは国教制だが、公立校の宗教の授業で英国国教会の教えだけを学ぶということはなく、6つの宗教について学び、相互理解を深めようとしている。


イギリスは、キリスト教以外の宗教も等しく公教育に取り入れることで、宗教について平等であろうとするのに対し、フランスはあらゆる宗教を排除することで、平等を達成しようとする。

イスラムのスカーフを公立校内で禁止し、キリスト教の十字架のペンダント、ユダヤ教のキッパ(男性用帽子)など、あらゆる宗教のアイテムを見えるように身につけることが禁じられた。

トルコでもイスラムのことだけを学べばいいとはされていないし、インドネシアやフィリピンは多民族国家なので、多様性に気を配りつつ、多様性がバラバラを意味しないように、異なる宗教の間にも共通性があること、国民としての共通性があることも示し、「多様性と統一」の両立を目指している。


いずれの国も特定の宗教を敵視することを教えているものはなく、主流派の宗教に偏ることなく、バランスに気を配り、「お互いに認め合おう」というメッセージがみられ、他宗教への寛容や平和を説いている。

一つの宗教が圧倒的多数派の国では、いろんな宗教の共通点があることを説明し、多数派がマイナーな宗教をおしつぶさないようにという配慮が目立っている。

分離型の授業でも、自分の教派のことだけを学べばいいとはされておらず、諸宗教を受け入れ、それぞれの宗教の信者が現実にどういう生活をし、何を考えているか、相互理解を促進する授業が展開されている。


もっとも、いろんな教科書の中から、これはいい、と思ったものを選んで紹介しているのでしょうけど。


セオドア・メルフィ『ヴィンセントが教えてくれたこと』で、少年がカトリック教会が経営している小学校に転校します。

担任は神父ですが、生徒はカトリックの信者だけでなく、少年はユダヤ教だし、バプテスト、仏教、無宗教などさまざま。
カトリックの教えを押しつけるのではなく、自分にとっての聖人について発表させるなどして、キリスト教の良さを伝えようとしています。


日本の教科書(歴史、地理、倫理)の傾向です。

①現在の諸宗教の姿よりも、過去の歴史的事件や、開祖の生涯・思想を学ぶことが多い。
②キリスト教と仏教の分量が多い。
③「倫理」は「イエスやブッダという先哲に学ぼう」というスタイルをとっている。

日本では「宗教」という言葉に警戒する人がいるので、異教徒の存在を目立たせない傾向がある。

そのため、ある宗教について一方的なイメージがふくらんでいくのが、今の日本の状況である。
たとえば、唯一神教は不寛容だというもので、キリスト教とイスラム教はお互いを認め合っていないと思われている。
実際の信者と接して学ぶ機会はあまりないので、一方的なイメージの間のギャップは広がるままというのが現状である。

イギリスの教科書について藤原聖子氏はこのように書いています。

この宗教科教科書が試みているのは、信じる人と自分との間の往復運動により、自分とは違うよりどころを持つ人と、自分の間に共通性と違いの両方を見つけ出し、そこから自分の生き方についてじっくりと考える機会を与えることなのです。

藤原聖子氏のオススメ教科書じゃないかと想像します。
子供たちにこの教科書のねらいが伝わればいいなと思いました。

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