三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

石原慎太郎『新・堕落論』

2012年10月28日 | 

石原慎太郎氏が衆院選に出馬するそうだ。
80歳なのにお元気なことです。

某氏から石原慎太郎『新・堕落論―我欲と天罰』をいただく。
自分のことは棚に上げて、上から目線で慨嘆し、世を憂いながら、自分はこういう人と親しいとか、こういうことをしたんだとかと自慢話をしている駄本。
「大人たちの物欲、金銭欲、性欲にまかせた心の荒廃」「物欲、金銭欲、性欲といった我欲が野放図に氾濫するこの日本」などと、自分は無欲のつもりでいるのか知らないが、『太陽の季節』を書いた人がよく言うなと思う。
自分は政治家なわけで、日本が堕落したのというのなら、自らの至らなさを恥じてもよさそうなものである。

某氏は「ゴーストライターが書いたんじゃないか。小説家の文章とは思えないほど下手くそ」と言ってたが、ゴーストライターならまともな文章を書くのではないかと思う。
たとえば、「ですます」と「~だ」が混在していて文体が不統一、読点(、)がないダラダラ文など、内容以前の問題である。
新潮社には優秀な編集者がたくさんいるだろうに、この体たらくはどうしたことか。
編集者が何も言えないとしたら、裸の王様である。

決して読みやすいわけではない『新・堕落論』が、本当に20万部も売れたのかと不思議である。
序章を読むだけでうんざりした。

「日本列島そのものを歪めて二米半も東へ押しやってしまった巨大な力が、一体何のためにふるわれ、多くの人命を奪い町を壊滅させたのだろうか」
石原慎太郎氏は、超自然的な「巨大な力」が何らかの意志・目的があって地震+津波を起こしたと考えているらしい。
「何のため」か、それは我執まみれの日本民族に天罰を与えるためなんだろう。
霊友会の信者であり、崇教真光の代表と親しい石原慎太郎氏ならではの考えである。

「私たちはもう一つ別の復元復興を志さなければならないのではないでしょうか。
それは六十五年前の敗戦の後今日まで続いてきた平和がもたらした、日本という国、日本という民族の本質的な悪しき変化、堕落の克服と復興です。
その内訳は、アメリカという間接的な支配者の元に甘んじ培われてきた安易な他力本願が培養した平和の毒ともいえる、いたずらな繁栄に隠された日本民族の無気力化による衰退、価値観の堕落です」
日本民族が堕落したのは65年間の平和だというわけだ。
65年間、軍事介入を続けたアメリカや、内戦で疲弊した国々のほうがずっとましだと思っているのだろうか。


「国民全体の意識の反省と向上に繋げていかなければ、この災害で犠牲になった同胞は浮かばれないでしょう」

では何をすべきかというと、自動販売機とパチンコが標的なんですね。
オリンピックの誘致・開催や尖閣諸島の都による購入、核兵器の保有といった主張のほうが問題ありだと思うのですが。

「この大災害の克復には多大な財源が必要なことは自明のことです。それを誰が負担するかといえば国民です。消費税の税率のアップも含めて、外国の有名ブランド製品など奢侈な買い物への物品税等、国民の責任負担なしにこの国が立ち上がれる訳はないし、今後の混乱の中で高福祉低負担などという幻想が続く訳もない」
日本が高福祉低負担の国だとは知らなかった。

「人間自身にとって非現実な現況からの逃避のために、弱い人間たちは安易な他力依存での救済を求めます」
「他力本願」を「自分は何もせずに人にまかせる」という意味に誤用するのは、言葉を大切にしている小説家としての堕落である。
それはともかく「弱い人間」への冷たさ、蔑視には虫酸が走る。

たとえば、集団自殺についてこう書いている。
「少なくとも彼等は死に至るまでに、死ぬほど恋したり、死ぬほど何かに悩んだりしたことはあるまい、ということだけは確かでしょう」
自ら死を選ぶ人たちの苦悩が想像できない人間が小説家と言えるか。
でもまあ、1999年、府中療育センター (重度知的・身体障害者療育施設) を視察した後、記者会見で「ああいう人ってのは人格あるのかね。ショックを受けた」と、平気で公言する人なんですからね。

失言・暴言がお得意の石原慎太郎氏だが、「老人を食い物にして蓄財発覚して裁判にかけられ責を問われた岡光なる厚生次官の存在ですが、昔ならこんな男は裁判を待たずに一連の壮士によって報復殺害されていたろう。しかし今の日本にはそのための壮士もいません」とテロの肯定、推奨をしているのはどういう感覚なのだろうか。
ウィキペディアで「石原慎太郎」を見ると、「不透明な政策・私物化疑惑」という項があるのに。

2007年に世界47カ国の人を対象に「政府は、自力で生活できない人に対応する責任があるか」と聞いた調査結果で、「全く思わない」「ほとんど思わない」と答えた人の合計は、米国28%、フランス17%、韓国12%、中国9%、英国8%、インド8%、ドイツ7%、そして日本は38%で、断トツの1位である。(「What the World Thinks in 2007」The Pew Global Attitudes Project)
困っている人は放っておけという考えこそ我欲まみれであり、そんな人が38%もいるということが日本の堕落である。
この38%は、自己責任や自助をことさら言い立てる政治家を支持していると思う。

コメント (52)
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