三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

鈴木伸元『加害者家族』1

2011年08月22日 | 厳罰化

子どもが空き巣で捕まった人に話を聞いたことがあるが、加害者家族は大変だとつくづく感じた。
鈴木伸元『加害者家族』を読んで、その思いを強くした。
というか、いやはや、ぞっとしました。

宮崎勤の父親の自殺を佐木隆三氏は「現実からの逃避」として非難したそうだ。
佐木隆三氏がそんなアホとは知らなかった。
もっとアホなのは鴻池祥肇氏で、長崎男児誘拐殺人事件の時に「こうした少年事件に対して厳しい罰則を作るべきだ。加害者の少年を罪に問えないのならば、親を市中引き回しにした上で打ち首にすればよい」とのたもうた。
この鴻池発言に賛同する人が多かったそうだが、この人たちは「自分の子どもがひょっとして」という考えが頭をよぎることのない幸福な人なんでしょうね。
死刑賛成の坊さんに「自分の子どもが事件を起こしたらと考えてほしい」と言ったら、「死刑になりたくなかったら悪いことをしなければいい」「子どもが悪いことをしないようにちゃんと育てればいい」と自信たっぷりに応じられたことがあるが、加害者家族として責められるのは親だけではない。

宮崎家と交流があった坂本丁治(東京新聞記者)は「加害者の家族は、罪を犯した本人以上に苦しむことがあるのだということを、私はこの事件を通じて初めて知った」と語っている。
宮崎勤の姉妹は、長女は仕事を辞め、婚約を自ら破棄、次女は看護学校を退学した。
父親の弟2人は仕事を辞め、下の弟は離婚(娘の将来を考えて妻の旧姓にするため)。
母方のイトコ2人も勤め先を辞めた(週刊誌の記事のため)。
以前、殺人事件がある地方で起き、犯人のイトコは縁談が決まっていたのに破棄されたと聞いたことがある。
イトコも加害者家族なのである。

家族が逮捕されると、まずマスコミが殺到する。
警察から「マスコミはそれなりの報道をするでしょう。家の周りがマスコミで一杯になると思われますので、できるだけ早めに子どもさんを連れて自宅を離れてください」と忠告を受ける。
自宅の周辺には人垣ができ、明々とライトがついてテレビ局の中継車が何台も停まる。
新聞やテレビは容疑者の顔写真を手に入れようと、近所や関係者に当たる。
時間や都合に関係なく訪れては、インターホンを何度も鳴らし、ドアノブをがちゃがちゃ回し、乱暴にノックする。
容疑者の子どもが学校に通っていたら、その学校や生徒に取材する。
これを集団的加熱取材、メディア・スクラムと言う。
「事件や事故の当事者のところへメディアが殺到し、家や職場を取り囲むなどしてプライバシーを極端に侵害したり、社会生活を妨げたりして、精神的にも物理的にも追い詰めていく」
近所の人に迷惑をかけるわけで、加害者家族は居づらくなる。

そして、いやがらせの電話、手紙がひっきりなしに来る。
ほとんどが匿名。
加害者が少年の場合は通っていた学校にもいやがらせがある。

そしてインターネット。
警察から「インターネットには十分注意してください。自宅の連絡先や、お子さんの名前、通学先など、個人情報が書き込まれることがあります」と忠告がある。
あることないこと書かれるわけだが、中には本当のこともあり、知り合いがこれを書いたのかと疑心暗鬼に陥る。

加害者家族やまわりの人の個人情報(自宅の住所、電話番号、家の写真、勤め先など)を暴き、攻撃、糾弾する人たちは、正義を振りかざしているが、いじめて楽しんでいるにすぎない。
その本人は匿名という安全地帯から攻撃するわけだから、自分に火の粉が降りかかる怖れはない。
2ちゃんねる用語に「スネーク」や「電凸」という言葉があるそうだ。
スネーク「特定の団体や個人に関係する場所に出没し、写真を撮ったり情報取材をしたりして掲示板に書き込んでいく人たちのこと。ある個人が住んでいる場所や勤務先を解析し、「スネーク」が現場に乗り込むのだ」
電凸「関係者に電話をかけて抗議をしたり、情報確認をしたりして、結果を掲示板に書き込むこと」

『誰も守ってくれない』という映画は、兄が小学生殺人事件の犯人として逮捕された女子中学生が主人公で、移動先がネットにすぐさま書き込まれるので逃げ続ける。
いくらなんでもそんなことはあり得ないと思ったが、現実にあることなのかもしれない。

コメント (10)
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