三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

浜井浩一『2円で刑務所、5億で執行猶予』6

2011年04月05日 | 厳罰化

では、再犯防止には何が必要か。
藤岡淳子大阪大学教授の話によると、刑務所だけでいくら矯正プログラムをしてもダメで、施設内処遇と社会内処遇との一体化が再犯率低下の鍵である。
出所後6ヵ月以内に再犯する人が多いので、半年間の社会内処遇をきちんとすれば再犯は減る。
そのためには、話せる場があること、回復のモデルが大切である。
先輩が変わるのを見ることで、自分も変わっていくことができる。
しかし、日本では矯正局と保護局とに分かれていて連携が弱い、という話だった。

浜井浩一『2円で刑務所、5億で執行猶予』に犯罪学者ボニタ・ベイジー博士の「犯罪者に限らず、社会から排除された人々の回復のプロセス」を紹介してあるが、藤岡淳子氏と同じ趣旨である。
「犯罪者が立ち直るためには、その人を立ち直らせたいという思いを強く持って人との出会いや関係性が重要であり、その関係性を通して、自分が社会にとって役に立つ人間であるという自己イメージを持つことができたときに、人は立ち直ることができるというものである」
そして、浜井浩一氏はこう言う。
「社会に居場所のない状態で人は更生することはできない。心理療法は、そのきっかけや方向性を与えるに過ぎず、本当に立ち直るためには、地域での定着支援が不可欠であり、その中で支援者との関係性が作られ、安定したアイデンティティーを形成することで、人は立ち直ることができるのである」

私なりにまとめると、人が立ち直るためにはまず「話ができる場、話を聞いてくれる人」が必要である。
そして、次の二点。
1,社会に適応した人の援助
「多くの実証研究で確認されていることのひとつが、人が立ち直るためには、社会に適応した、つまり非行少年や犯罪者ではない友人や家族が必要だということである」
2,更生した「こうなりたい」というモデル
「人は、学習の動物であり、「こうなってはならない」あるいは「こうなりたくない」と思っていても、他に「こうなりたい」というモデルやそこに導いてくれる人が存在しなければ、具体的に体験した「こうなりたくない」という人になるしかない」
「適切なモデルを提示し、それに従った学習を身につけさせなければ、つまり進むべき道を具体的に示さなければ、何の役にも立たないどころか有害である」

で思ったのが、
「“ばっちゃん”引退~広島・基町 名物保護司 最後の日々~」というNHKの放送である。
この番組で紹介される中本忠子さんたちは、社会内処遇がどうのとか、○○プログラムといったことはご存じないかもしれないが、「社会から排除された人々の回復」を実践している。
30年前から中本忠子さんの家に、家庭や学校に居場所のない子どもたちがやって来てご飯を食べていく。
今まで300人もの子どもたちが来ているという。
そして、20数年前から「食べて語ろう会」を協力する人たちと月に二回、近くの公民館で行っている。
子どもたちだけでなく、刑務所から出た人も来るそうで、この人たちも「食べて語ろう会」のお
手伝いをしている。

子どもたちの多くは家庭環境が悪い。
家族がそろって晩ご飯を食べることがない、誕生日を祝ってもらったことがない、覚せい剤を打つ親の姿を赤ん坊の時から見ているetc。
そういう子どもたちは生きていく上での「こうなりたい」というモデルがないか、間違ったモデルしかいない。
中本忠子さんは「うちに出入りする子で事件を起こした子は一人もいない。それが自慢」と話されている。
それは中本忠子さんたち「社会に適応した人」のはたらきのおかげだし、それに加えて、問題を起こしたけれども今は真面目にやっている先輩がいるということも大きいと思う。
AAの先行く仲間(自分より先に自助グループにつながった人)みたいなものである。

世の中には大した人がいるもんだと私はつくづく感心したし、伊達直人もお金を送ってきたそうだが、「食べて語ろう会」にいい感情を持たない人も結構いるようで、悪いことをしたんだから厳しくすべきだと考え、自分の住む地域から遠ざけようとする人のほうが主流なんだろうと思う。
何でもマスコミのせいにしてはいけないが、浜井浩一氏が「マスコミは、刑罰が下される前に袋叩きにして、社会的制裁を加える」と言うように、我々も「あの人は」という目で見てレッテルを張って排除するなら、せっかくできたつながりが切れて立ち直りのきっかけを失うことになる。
「人は社会とつながらずに生きていくことはできない。刑罰後の更生には社会とのつながりを取り戻すことが不可欠であるが、社会的制裁は、社会とのつながりを断ち切ってしまう。当然、これによって刑罰後の再犯が助長される。厳罰化は、刑罰と社会的制裁の微妙なバランスを壊し、更生の道を断つことで再犯を促進している。
人は、生活する場所と、支えてくれる人がいなければ、頑張れないし、更生できない。「犯罪をしたのだから自業自得」と切り捨てるのは簡単だが、そのつけは形を変えて私たち自身に返ってくることを忘れてはならない」
という浜井浩一氏の主張はしごくもっともだと思う。
「食べて語ろう会」の活動をよく言わない人に聞かせたい。

コメント
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