三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

市民感覚と裁判の井戸端会議化

2009年11月21日 | 厳罰化

裁判員制度が始まって21日で半年になります。NHKが全国で裁判員を務めた人たちに独自にアンケート調査を行った結果、71%の人が人を裁くことなどに心理的な負担やストレスを感じた一方、93%の人が「判決に市民感覚が反映された」と参加した意義を感じていることがわかりました。NHK11月20日
市民感覚とはいったい何か、ということなのだが、裁判員候補者になっても選任されない人がいるという。

<裁判員裁判>「理由なし不選任」62人…8~9月
高裁は17日、8~9月に全国で行われた裁判員裁判14件の実施状況と裁判員のアンケート結果を公表した。裁判員選任手続きで、検察側と被告側の「理由なし不選任請求」により候補者計62人が除外されたことが初めて明らかになった。結審後の評議時間は平均約6時間だったが、裁判員からは「足りなかった」との声もあった。
 14件で計1310人が裁判員候補者に選ばれ、そのうち計84人が裁判員、計36人が補充裁判員になった。
 選任手続きで、検察側や被告側は裁判所に呼び出された候補者から、それぞれ最大7人まで理由を示さずに不選任とするよう求めることができ、裁判所は必ず認める。この仕組みで除外された候補者は、平均すると1件あたり4.4人だった。
毎日新聞11月17日

1310人のうち62人が不選任ということは約4.7%である。
では、どういう理由で選任されないのか。

<最高検>裁判員候補除外8件25人 8~9月の不選任理由
 最高検は19日、8~9月に開かれた14の裁判員裁判の裁判員選任手続きで、理由を示さないまま裁判所に不選任を求める「理由なし不選任請求」を8裁判で行い、25人を候補者から除外したと発表した。実際の請求理由は(1)裁判所の説明をまじめに聞こうとせず真摯な職務が期待できない(2)被告や被害者の知人や関係者である可能性が高い(3)公平な裁判を否定する発言や態度があった--など。
 検察側が理由を明らかにしたのは初めて。最高裁は17日、弁護側も合わせた請求総数が14裁判で62人に上ると公表したが、内訳は明らかにしていなかった。請求は検察、弁護側双方が最多で各7人(補充裁判員数により異なる)求めることができ、裁判所は必ず不選任決定を行う
。(毎日新聞11月19日

死刑反対の人が選ばれないのかと思っていたら、説明をまじめに聞こうとしないとか、公平な裁判を否定する発言や態度があるといった、そういう人が結構いるわけだ。
ところが、厳しい選任手続きを経て裁判員になった人の中にも困ったちゃんがいました。
男性裁判員が感情をむき出しに被告を問いつめ、裁判長に制止される一幕があったそうだ。

「むかつくんです」裁判員が性犯罪の被告を詰問、裁判長が制止
 裁判員の被告人質問では男性4人が質問。中年の男性裁判員が声を上げた。
 「この裁判は長いと感じる?」。結城被告はか細い声で「長いです」と答えた。続けて男性が「裁判が面倒くさいと思わないか」と訪ねると、結城被告は「自分でやったことだから仕方ない」。さらに男性は声のトーンを上げて「俺的にはやばいとか、(捕まって)運が悪いとか感じる。そうは思わなかったの?」。結城被告は「そうは思わなかったです」と答えた。
 厳しい目で結城被告をにらみながら男性は「二度と繰り返さない気持ちはあるか」と問いかけ、「(その気持ちは)どれくらいか」と続けると、うつむいていた結城被告は30秒ほど沈黙した。
 ここで男性が「即答できない…。昨日から『反省します』とか当たり前の答えしか返ってこない。被害者に対して反省とかこれからですよね。(被告が女性の首を絞めたかどうかの争点について)両手だった片手だったかは関係ない。あなたはむかつくんです」とまくし立てるように非難した。これに対して川本裁判長は苦笑いで「その辺で」と制止すると、男性は「わかりました、すいません」と言って質問を止めた。
産経新聞11月19日
裁判で「まくし立てるように非難した」と感情むき出しにするなんてと思うのだが、ネットの反応は「気持ちはわかるが……」というものが多い。
だけど、これは「公平な裁判を否定する発言や態度」なんですけど。

それにしても、「(その気持ちは)どれくらいか」と聞かれても、どう答えたらいいのかと思う。
「当たり前の答えしか返ってこない」と言われても、だったら当たり前でない答えをしたらいいのかと思う。
「両手だった片手だったかは関係ない」と怒られても、そこを審理するのが裁判ではないかと思う。
「俺的」という言葉を使うのだから若い人かなと思ったら、中年とのこと。
で、裁判長は「苦笑」したそうだが、弁護人は「むかつく」発言にどう対応したのか。

暴行の経緯を巡る弁護側の主張にいら立ったとみられる男性裁判員が、被告に「むかつくんですよね」と大声を上げたため、弁護人の前田誓也弁護士は最終弁論で「細かいとか、くどいと感じられる方もいるかもしれないが、ご理解いただきたい」と訴えた。
前田弁護士は結審後、報道陣に「裁判は被告人に反省を促す場。多少きつい言葉も被告人にとって良かったのかもしれない」と述べた。判決は、20日に言い渡される。
読売新聞11月20日

「むかつく」裁判員を忌避することは今さらできないにしても、弁護人は裁判長に抗議してもいいと思うのだが、「ご理解いただきたい」とあくまでも下手に出ている。

テレビを見ながら、「あいつ、むかつく」とか「裁判なんかしなくていい」とか言うのはその人の勝手である。
だけど、いくら反省をうながすといっても、感情のむき出しに「まくし立てるように非難」しのでは、反省するものもしなくなってしまう。
「市民感覚」とは何かというと、「むかつく」「気持ちはわかる」といった感情だとしたら、裁判は報復の場(当事者ではなく第三者の)になってしまう。
苦笑い
ですむ問題ではないと思う。

追記
【裁判員裁判】「心情的に同じ気持ち」むかつく発言 裁判員経験者が意見
 女子高生=当時(15)=に対する強姦(ごうかん)致傷罪に問われた宮城県大崎市の無職、結城一彦被告(39)を審理した仙台地裁(川本清巌裁判長)の裁判員裁判。
 20日の判決で、川本裁判長は「被害者の精神的、肉体的な苦痛は重大」とし、懲役9年10月(求刑懲役10年)を言い渡した。判決理由では「謝罪の気持ちがあると認められるとの意見が大勢でした」と、被告の反省度合いを議論した評議の一端を明らかにした。
 判決公判後の会見には、男女4人の裁判員経験者が出席。被告人質問で結城被告に「むかつく」と発言した50代男性も応じた。
 男性は、川本裁判長に「説教が始まるのかと思いました」と諭されたエピソードを披露。「評議で被告の刑を軽くする気持ちになった。(裁判官と裁判員の)9人で話していくうちに変わった」と説明した。
 男性の発言について、仙台市若林区、主婦、渋谷みち子さん(59)は「心情的に同じ気持ちだった。『よくぞ言ってくれた』と感じた」と同調する意見。柴田町の高橋忍さん(54)は「裁判官は感情をあらわにできない。(男性の発言は)裁判員制度のおかげだと思う」と話した。
産経新聞11月21日
「俺的」「むかつく」男性が50代だとは。
私としては「俺的」なんて言葉を使うのは恥ずかしいです。
それにしても評議はなごやかな雰囲気だったようで、他の裁判員も「『よくぞ言ってくれた』と感じた」とか「(男性の発言は)裁判員制度のおかげだと思う」という感想なわけで、やっぱり井戸端会議です。

「被告の刑を軽くする気持ちになった」わりには、検察の求刑のより2ヵ月短いだけ。
裁判員制度は結局は市民を動員して厳罰化を正当化していると思う。

コメント (2)
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