三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

「死刑制度」は、存置すべきですか?廃止すべきですか?

2009年11月29日 | 死刑

「通販生活」2009年秋冬号に載っている「「死刑制度」は、存置すべきですか?廃止すべきですか?」という記事を、某氏がコピーして送ってくれた。
これがなかなか興味ぶかい。

死刑制度の存廃についてのアンケートに対する投票総数は1269票。
「存置すべき」 849票 67%
「廃止すべき」 325票 26%
「どちらとも言えない」 95票 7%

「存置すべき」という読者が67%と圧倒的多数だと、記事にはある。
しかし、実生活に関係のない、関心を持っていない事柄については、多くの人は現状維持という答えをするものだから、死刑存置が3分の2を占めても圧倒的多数とは言えないと思う。
たとえば、2007年に共同通信社が実施した世論調査では、集団的自衛権は憲法で禁じられているとの政府解釈に関し、「今のままでよい」と答えた人は62.0%、「憲法改正し、行使できるようにすべきだ」は19.1%、「憲法解釈を変更し、行使できるようにすべきだ」は13.3%、つまり集団的自衛権の解釈見直しは不要、今のままでいいと考える人が3分の2なのである。

「通販生活」死刑存廃アンケートの投票者の世代別分析は以下のとおり。
              合計    存置すべき 廃止すべき どちらとも言えない
~10代  7(1%)    3(43%)    3(43%)     1(14%)
 20代    12(1%)    6(50%)    4(33%)     2(17%)
 30代 104(8%)    54(52%)  28(27%)   22(21%)
 40代 215(17%) 136(63%)  65(30%)   14(7%)
 50代 229(18%) 140(61%)  72(31%)   17(7%)
 60代 323(26%)   213(66%)    88(27%)      22(7%)
 70代 257(21%)   201(78%)    45(18%)      11(4%)
80歳以上102(8%)    80(78%)    18(18%)        4(4%)

年齢とともに死刑存置派が増加しているわけで、10年後に同じアンケートをしたら死刑廃止派が増えてるかもしれない。

もう一つ思うのは、80代でも死刑存置派は78%だということ。
死刑制度存廃について2004年の政府による世論調査では死刑賛成が8割だ、圧倒的多数の国民が死刑制度に賛成していると宣伝されているが、この調査は設問の仕方がおかしいことが「通販生活」のアンケートからもわかる。

「通販生活」は「存置派の意見で多かったのは、「もし自分が被害者遺族だったら」と想定したうえで、加害者は命で罪を償うことを当然とするものでした」と書く。
たとえば「ともすると、被害者より加害者の人権のほうが話題になる今、もし自分の身内が……と思うと、相当の罰は当然」(男性・73歳・福島)という意見。

いつも思うのだが、「被害者より加害者の人権が大切にされている」とはどういう意味か、よくわからない。
たとえば殺人事件があると、週刊誌やテレビは被害者のプライバシーをあれこれとあばきたてる。
これなんて被害者の人権無視も甚だしいといつも思う。
被害者の顔写真とか職業も必要ない。
たとえば、「16歳無職」とか「風俗店勤務」とか我々には必要のない情報である。
でも、「被害者より加害者の人権が大切にされている」とはそういうことを問題にしているわけではないだろう。
それと、なぜ「もし自分が加害者家族だったら」と考えないのか、これも不思議である。

「通販生活」では2008年秋冬号から3回にわたって8人(鳩山邦夫、亀井静香、土本武司、坂本敏夫、山上皓、原田正治、郷田マモラ、森達也)が死刑存廃について論じたらしい。
その8人の論者へも投票がなされている。

得票率31%の第一位は死刑存置派の鳩山邦夫氏である。
鳩山氏の主張は「社会正義の実現と、凶悪犯罪の抑止力として死刑制度は存置すべき。加害者が後から反省しても、死刑執行を止めるには値しない。今は取り調べも慎重に行われており、死刑に関する冤罪は絶対にゼロだと確信している。死刑判決が下ったら粛々と執行すべき」ということで、「同氏の「勧善懲悪の徹底こそが犯罪を抑止する」とした意見は大勢の読者の心をつかみました」とのこと。
勧善懲悪が受けるのだから、いまだに水戸黄門が人気あるのもわかる。

田中優子氏が『検証 秋田「連続」児童殺人事件』の書評の中でこう書いている。
「報道がおこなうべきことは、犯罪者を自分たちとは異質な者として攻撃することではなく、勧善懲悪の正義の味方になることでもなく、誰もが陥るかも知れない、人の謎に迫ってゆくことではないだろうか」
メディアだけではなく、我々も田中優子氏の指摘を戒めとすべきだと思う。

2位(得票率16%)は山上皓氏(精神科医、「全国被害者支援ネットワーク」理事長)。
「犯罪被害者の多くが、加害者に極刑を望んでいることは事実。犯罪抑止の面でも死刑は存置する意義がある。しかし、死刑の存廃以前に、被害者や遺族に対する国からの財政援助がほとんどないことが問題だ。十分な支援体制の構築こそが急務である」
被害者支援は大切だけど、死刑存廃とどっちが先かという問題ではないと思う。

「加害者の処遇にかかる費用が年間約520億円、被害者支援の予算が同100億円と、具体的な数字を用いた比較に、衝撃を受けた読者も少なくありませんでした」ということで、こういう感想がある。
「人の命を奪った人に税金がこんなにも使われていることに怒りを感じる。加害者の人権ばかり保護されることに納得できない。死刑で償えるとも思いませんが、他に方法が見つかりません」(女性・51歳・東京都)
「加害者の処遇にかかる費用」とは受刑者の食費、衣料費、医療費などのことだと思う。
殺人犯にだけ約520億円も使っているわけではないだろうに。

読者の感想の中にはこうした誤解に基づくものがある。
たとえば、「死刑囚は執行当日まで生活面、健康面、精神面までの十分なケアを受けられるのに対し、被害者や遺族は見捨てられている。加害者の支援ばかりに偏っている状況を何とかするべきです」(女性・36歳・愛知県)という意見は、死刑囚の中に精神に異常をきたしている人が少なからずいることを知らないのだと思う。
他の6氏については省略。

加害者の支援と被害者の支援とは矛盾するものではなく、両立させるべきだと思うのだが、加害者に厳罰を科すことが被害者支援だと考える人が少なからずいるわけである。
日本犯罪社会学会編『グローバル化する厳罰化とポピュリズム』によると、どの国でも世論は厳罰化に傾くそうだから、そんなものかもしれないけど。

コメント (23)
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