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日本幻景 #14 - 傷痍軍人

2015-09-06 19:57:37 | Bibliomania
軍人傷痍徽章(しょういきしょう・1923)
佐賀の乱(1874)や西南戦争(1877)を帝国軍人として戦った者の労にこたえ、生活の安定を図るため、軍人恩給制度が設けられた(1875海軍、1876陸軍)。
恩給制度はやがて文官~その他公務員~会社員~その他国民と適用範囲を広げた現在の年金制度の基となる。一方で、戦闘が元で失明したり手足を失うなど、その後の生活に困難をきたす者は「傷痍軍人(現在の呼び方では戦傷病者)」と認められ、療養所や職業訓練施設などが整備されていった。が、第二次大戦の敗戦後、重度障害者を除き軍人恩給が一時廃止され(1951年、サンフランシスコ講和条約により復活)、各地に復員したばかりの傷痍軍人の就職や暮らしは労苦を極めた。

彼らは「日本傷痍軍人会」として生活の改善・安定を訴え、最盛期には約35万人の会員がいたが、約5千人に減って2013年解散。政府は2006年に彼らの足跡をしのぶ「しょうけい館」を千代田区九段南に設立。常設の展示に加え、現在企画展「戦傷病とは? 第1部 戦傷」が開催されている(9月27日まで)




乃木希典(まれすけ)大将が考案した義手のモデルを身に付け、豆を皿から皿へ移す体験ができる
明治期の高名な軍人・乃木は廃兵(重度の障害を負った傷痍軍人)の支援に熱心で、「自分の手でタバコが吸いたい」との願いを聞きつけて、自らの年金を担保として乃木式義手の制作・支給に携わった




日露戦争(1904~05)時の旧満洲地域における野戦病院の様子
しょうけい館2階に展示されている野戦病院は、岩山の洞窟を利用した堅牢な作りだが、これはインパール作戦での敗走時をイメージしたもので、多くの場合、野戦病院は戦線の変化に伴い移動するのが原則なので、簡便なテントによる設営




手術で摘出された、変形した銃弾(左)。小口径弾の射入口と射出口(右)
弾丸のエネルギーは、その直径が大きく質量が重いほど強いといわれている。しかし実際は、弾丸の速度が殺傷力に大きく影響するとされる。その直径が小さいほど速度が速くなり、しかも軽いため体内で変則運動し、創が大きくなるためである




しょうけい館2階の野戦病院のジオラマ。戦争末期、壕の中での手術の様子を再現
戦場では常に物資が不足し、医薬品や手術道具も例外でなく、麻酔をせずに手足の切断手術や、弾丸などの摘出手術を行った。メスなどが神経に触れると、電気ショックを受けたように意図せずして体は大きく跳ね上がるので、衛生兵が2人がかりで押さえつける。極度の苦痛で汗が滝のように流れる





私の知る傷痍軍人といえば、何といっても水木しげるさんだ。麻酔なしで左腕を切断し、のち漫画家として成功を収めた。↑この「白い旗」という短編で、主人公が片目を失っても「生きてたんだ」と言い、彼ら生き残った者たちを逃がすため部隊長が米軍に向け白い旗を振る物語に、水木さんの人生観・戦争観が凝縮されている。

その一方、白土三平さんの漫画、特に『忍者武芸帳』では、手足を切り落とされても戦い続ける忍者がしばしば描かれる。実際、戦い続けることができるものだろうか?
白土さんはまだよい。例えばウルトラマンや仮面ライダーなどで、殺された怪獣や怪人が、溶解したり爆発したりして、むごたらしい遺体を自ら消し去ってしまうことがもっぱらだが、どうも子どもの教育上よろしくないのでは。

右派・保守派の政治家などが、残酷描写があるからといって『はだしのゲン』を子どもに見せたがらないというのも同じだ。
しょうけい館で見聞したある兵士の証言によれば、障害を負って復員し、車に乗せられて横須賀の海軍病院へ向かう途中、子どもがパラパラと小石を投げつけてきて、「戦犯!!」と罵声を浴びせたのが大きなショックであったと。

こうした子どもが、正しく導かれ、後に改心してくれればよいが、上記のようなテレビやゲームを潤沢に与えられて育った場合、戦争の暗部には蓋をしたまま勇ましいことを言うネトウヨや、在特会のような差別主義者ができあがるのだろう。

しょうけい館は靖国神社ともほど近い立地の、れっきとした国立施設ながら、ひっそりとして、訪れる人も少ない。そして、大島渚のドキュメンタリー「忘れられた皇軍」に描かれる、日本人として徴兵・徴用され重度障害の身となりながら、サンフランシスコ講和条約の発効に伴い日本人の身分を失い、恩給や援護法の網から外れ困窮を強いられた朝鮮半島・台湾出身者に対し、靖国はもちろん、しょうけい館ですら何の言及もしていない―



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