ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん37…銀座 『天龍』の、ボリューム満点餃子ライス

2006年04月29日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 ほぼ毎号欠かさず読んでいる、食情報誌のdancyu。今月はメインが餃子特集、サブが缶詰特集と内容が盛りだくさんで、立ち読みで済まさずに買ってしまった。どちらかというと缶詰特集が気に入ったのだが、餃子特集も読んでいると、昔行ったことのある店や行動圏内にあるうまそうな店など捨てがたい。どうにも食べたくなり、かつて銀座に勤めていた頃に食べにいった名物餃子店へ、久しぶりに足をのばしてみたくなった。

 かつて通った社屋は銀座の一丁目にあり、近くで食事するのはいつ以来だろうか。この日のお目当ての『天龍』を最後に訪れたのも数年前で、かすかな記憶の中でも印象に残っているのは、昼時を避けることとしっかり空腹で行くこと。そこで14時過ぎまでお昼を我慢していざ、出発だ。昼は食券を買う順番待ちの行列ができる人気店で、この時間なら並ぶ客も数人、店内にもパラパラと空席が見られる。店頭のショーケースにはチャーハンや麺料理、一品料理も豊富だが、目指すはただ、餃子ライスのみ。名前の通り餃子とご飯だけという単純明快なメニューで、別に何か注文したり、ご飯を大盛りにしてもらうと、後で大変なことになることは覚えている。

 レジで食券を買ってから2階に上り、店員に中央の丸テーブルへと案内された。食券を渡して待ちながら店内を見渡すと、お客は周辺に勤めるサラリーマンや、銀座への買い物客が中心のよう。中にはОLのグループやおばちゃんひとり客の姿も見られ、驚くことにほとんどが例の餃子ライスを頼んでいる。餃子は何といっても店の看板で、1日およそ600人前、休みの日には800人前も出る定番メニューだ。調理場にある大鍋で、たくさんの量を一気に焼き上げるので、時折焼きあがった餃子がこぼれんばかりにのった皿が何枚も、フロアを行ったり来たりしている。サラリーマンはもちろん、女性客たちも大盛りの餃子を前に奮闘中で、見ていて食べ切れるのか心配になるほどのボリュームである。

 そしてようやく自分のところへも、件の餃子ライスが運ばれてきた。皿には長さ15センチ近い大振りの餃子が、無造作に8つゴロゴロとのっていて、ほかにはご飯と高菜の漬物の小皿だけ。ご飯は普通の茶碗の半分ぐらいの小盛りだが、この餃子の山を見るとそれぐらいでもう充分、と納得。一品料理を別に頼むなどもってのほかだ。この店の餃子のルーツは、昭和24年の開業の際に、店の名の由来になった相撲取りの天龍関が、店の名物になる料理を、と考案されたものという。味はもちろん、この迫力ある大きさが何よりの売りで、関取が考案したからなのだろうか。

 昼飯をずらしたおかげで底抜けの空腹のため、築かれた餃子の山に迷わず突進だ。小皿に醤油とラー油、酢を少々とって、軽くつけてまずひとつガブリ、それほどカリカリに焼けてなく、しっとりシコシコした歯ごたえの皮の中から、熱々の肉汁がジュッ。中はこってりとコクのある豚肉のあん、さらにしゃきしゃきと野菜もたっぷりで、実に涙がでるようなウマさ。豚肉を荒く挽き、じっくり時間をかけて練ることで、脂から出てきた旨味がかなり濃厚。肉汁が皿にたれてしまうのがもったいなく、餃子を「すする」ようにして食べる。

 この店の餃子のもうひとつの特徴は、餃子につきもののニンニクを使っていないこと。その分刻んだ白菜がたっぷり入っているので、豚肉が濃厚なのに味わいが軽い。厚めの皮のシコシコ感もまた、食べ応えがある。グルメマンガの「美味しんぼ」で餃子勝負のとき、かの山岡士郎が「餃子は完全食になりうる」と海原雄山に一席ぶるシーンがあった。確かにあんには豚肉ほか海老やフカヒレといった海鮮、さらに白菜やニンニク、ニラなど野菜も豊富。皮はどっしりした味わいの小麦粉が主流で、蒸し餃子では米粉で打ったむっちりした食感の皮を使うこともあり、炭水化物も充分摂取できる。ご飯はついているが、餃子だけでも1回の食事として充分な栄養素がとれるのかも知れない。

 ひとつ食べてはご飯をかき込み、またひとつ、と、8つある餃子を数えながら食べていく。餃子をご飯の上にのせてかじり、たれた肉汁が染みたご飯がまたうまい。周囲を見ると醤油と辛子をつけて食べている客もおり、これが天龍流の「通」の食べ方なのだとか。中間の4つまではするりと入り、5つ目を越えてややお腹にたまってきた。脂っこさも重さもないから、残り3つもスルスルといける。高菜の漬物がさっぱりとありがたいが、せめてスープがあるとうれしいのだが。餃子は肉汁がこぼれるほどだから、まあ気にならないか。

 始まりから終わりまでひたすら餃子、といった昼食を終えて、満足して店を後に。あれだけの大きさ、数の餃子を食べてすっかり満腹のはずが、仕事を終えて帰りに電車で京急蒲田を通った際に、ここの餃子の店もdancyuで紹介されていたな、と気になる。今日のところはおとなしく通過するが、おかげでしばらくは餃子行脚が続きそうな予感である。(2006年4月20日食記)