ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん47…鹿児島・肥薩線 観光列車『いさぶろう』で食べる駅弁・栗めしと鮎寿司

2006年04月25日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 鉄道の旅の本の仕事で、熊本県の人吉と鹿児島県の吉松を結ぶ観光列車「いさぶろう」に乗車することになった。県境の峠を越えながら、展望を楽しみつつ鉄道の旅ができるこの列車、最近の汽車旅ブームのおかげもあり、なかなか予約がとれないほどの人気だ。出発時刻より早めに人吉駅のホームへ向かうと、1両ぽっちのディーゼルカーがすでに入線。古代漆色の車体に輝く金のエンブレム鮮やかな列車の車内は、木製のシートをあしらい、大きく窓をとったパノラマスペースも装備されているなど、いかにも観光列車らしいたたずまいである。

 出発する前に、列車の旅に欠かせないアイテムを仕入れなければ、とホームの駅弁スタンドを探そうとしたところ、懐かしい立ち売りがホームに出ているのを見つけた。人吉の駅前にある「人吉駅弁やまぐち」の名物立ち売りおじさんで、ホームにいい声で売り声を響かせている。「いさぶろう」の出発前には出ていることが多いそうで、おすすめを聞くと「鮎寿司と栗めし」とのこと。迷ったあげく、せっかくだから両方を買い込んで、車内の一角に陣取った。

 取材のため、人吉から吉松まで往復とも乗車するのだが、往路は写真を撮ったりメモをとったりと忙しく、駅弁はおあずけ。列車は人吉駅を出発するとゆるゆると登り、いくつかのトンネルをくぐると大畑駅へと到着した。ここから急勾配の難所をクリアするため、珍しい鉄道施設が連続する。3分ほど停車した後に、列車はいきなりバックを開始、今来た線路を引き返すのかな、と思ったら、右下にさっき登ってきた線路が見える。いったん停まると再び逆進、今度は大畑駅に戻るのか、と思ったら、駅構内を右に見下ろしながら勾配をぐいぐいと登っていく。斜面をジグザグに登ることで傾斜を緩和する「スイッチバック」で、前へ後ろへ進みながら次第に山を登っていくのが面白い。登りながら急なカーブをぐっと曲がって、列車はいつの間にか先ほどくぐったトンネルの真上へと到着。これは360度旋回して高度を稼ぐ「ループ線」で、車窓の左奥にはさっき停まっていた大畑駅が見下ろせた。行ったり来たり、ぐるりと回って、一体どっちに向かっているのか方向感覚がおかしくなりそうだ。

 ループ線を登りきるとしばらく列車は尾根線を走り、車窓左には五木や五家荘方面の山々を遠望、高原列車の風情となる。沿線最高所の矢岳駅を過ぎ、列車の愛称の由来である、肥薩線の工事責任者で逓信大臣の山県伊三郎の壁額がある矢岳トンネルをくぐったら、あとは転がるように峠を下り、終点の吉松駅へと到着した。吉松駅のホームにも立ち売りが出ており、駅前の食堂風の店で調整している「汽車弁当」が人気の様子。往路の取材が無事終わりほっと一息、帰りは人吉駅で買った弁当を頂きながら、のんびり列車の旅を楽しむことにしよう。折り返しの列車は鉄道員総裁の後藤新平にちなみ「しんぺい」という愛称で、吉松駅を出てこれまた雄大なスイッチバックの真幸駅を出ると、再び登りにさしかかる。車窓の景色がいいところで食べよう、と、ここでひとつ目の駅弁「鮎寿司」の包みを開いた。

 青竹を模したプラスチック容器のふたを開くと、鮎の尾頭付きが丸2匹横たわっているのが目に入ってきた。丸のままの鮎を1日間酢で締め、開いてご飯にのせて押し寿司にしただけと、ずいぶんシンプルな駅弁である。身の部分は厚く、ひと口頂くと思いの他さっぱりした味わい。締め加減が軽いようで尾や頭は少々固く、全体的にちょっと小骨が多いか。昆布だしで炊いた酢飯との相性も良く、球磨川の急流で育った鮎らしく、上品な旨みがしっかり出ている。

 霧島連山や韓国岳を臨む「日本三大車窓」の展望所にさしかかったころ、鮎寿司を平らげてもうひとつの駅弁「栗めし」の包みにも手を伸ばす。こちらは赤い栗型のプラスチック製容器に入っていて、中は具だくさんの混ぜご飯といった印象。切り干し大根入りの炊き込みご飯は、醤油味であっさりとおいしく、山菜や煮物など付け合わせの惣菜も手作りの雰囲気で味わいがある。豊富な具材の中でも、目玉は地元人吉盆地産の栗。大粒のがぎっしりと入っていて、しっかりした甘味がうれしい。

 栗めしを食べ終えた頃、列車は再び大畑駅のループとスイッチバックに差し掛かった。人吉の郷土の味を詰め込んだこの弁当、どちらも素朴な駅弁で、ローカル列車の旅にはよく似合う。峠を下って人吉駅に着いたら、列車の旅は無事終了。今夜は人吉温泉泊まりだから、鮎寿司の駅弁に触発され、今夜は球磨焼酎を傾けながら鮎尽くしといこうか。(7月食記)


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