ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

極楽!築地で朝ごはん25食目…『鳥藤分店』の、塩焼きの焼き鳥が3串のった焼き鳥丼

2006年04月20日 | 極楽!築地で朝ごはん
 間口が狭くカウンターだけといった簡素な店構えに、中では仕事を終えた市場の人たちが朝からビールで一杯、といった雰囲気が特徴の市場食堂。築地場外市場に通い始めてからはそんな店が気に入って、新大橋通商店街に多いカウンターの丼物屋やラーメン、カレースタンドなどを中心にあれこれと食べ歩いてきた。そのせいか、主だった市場食堂風の店は一巡してしまったようで、このところ街の飲食店といった店や、チェーン系の店での朝食が増えている。築地の場外にあるのだから、こうした店も味は市場食堂と変わらないのだが、小綺麗な店内で食事をしていると、市場の喧噪の中にいるのを忘れてしまうことも。

 昨日に続いて、この日も寿司で朝ごはんにしようか考えていると、昨日の「つきじや」で握りの「並」を注文した際の無粋な反応を思い出して、少々面倒な気分になってしまう。市場の人御用達といった店も、あまりディープだと入りづらいし、と、この日は築地探訪のテンションが少々下がり気味だ。こんな日は無難に、入りやすい店に決めてサッと食べることにしよう。人通りが多く賑やかな築地西通りで、選んだのは『鳥藤分店』という店。名の通り鳥料理が専門なので、ついでに魚料理も今日はお休みとしてしまう。比較的新しい店らしく、ドアをくぐると築地らしからぬ? 小じゃれた落ち着いた感じの内装。店員も若く気さくで、ちらほら見かける女性の観光客グループに親切にメニューの説明をしている。一方ではカウンターで河岸の親父が、店の人と世間話をしながら和む姿も。市場食堂らしさと、築地の観光客の入りやすさが同居した、独特の雰囲気である。

 鳥藤といえば、築地西通りの中程にある鶏肉屋が思い浮かぶ。店の前を通ると店頭ではいつも、焼き鳥や総菜を売っていたりと活気があふれている。創業は明治40年と、築地では数少ない老舗の鳥肉専門店で、鳥藤分店はここの目と鼻の先。こだわりの塩と備長炭で焼き上げた焼鳥丼や鳥めしなど、専門店直営のメリットを生かした質のいい素材を使った鳥料理が自慢だ。注文した焼鳥丼は、塩焼きねぎま串が2本、塩焼きすき身串が1本のっている。ともに塩がよく効いていて、かじると肉汁と旨みがジュッ。先日頂いた「ととや」の焼き鳥丼は、淡泊な味わいだったのと対照的に、この店の鶏肉は柔らかいが味がしっかりと濃い。タレがテーブルに置いてあるけれど、そのまま頂いても充分に味がついている。

 串を片手に焼き鳥がどんどん進んでしまい、残ったご飯はテーブルのタレをかけて平らげた。丼についてきた黄金色のスープがまろやかで、朝の胃にはやさしくてありがたい。市場の飯らしいボリューム感には少々乏しいけれど、軽く食べられるのは朝食向きか。パワーにあふれ、ディープなムードの市場食堂に少々疲れたときは、こんな「ニューウェーブ市場食堂」で軽く気分転換するのもいいかも知れない。(6月下旬食記)

極楽!築地で朝ごはん24食目…『つきじや』の、並にぎりと穴子焼き

2006年04月18日 | 極楽!築地で朝ごはん
 築地の食べ歩きガイドブックをパラパラとめくっていると、大トロや中トロをはじめ、ウニにイクラ、クルマエビ、赤貝など、極上のネタを使った握りがどうだ、と言わんばかりに並んだ写真が、あちこちで目に入ってくる。「特上寿司」や「おまかせ」と書かれたこれらのメニュー、確かにうまそうだがどこも3000円以上する品ばかり。築地の寿司屋といえども、これぐらい予算をかけないと食べられないのか、と記事を隅々まで眺めていると、値段表に「並」とか「梅握り」があることはある。築地で朝ごはんにはこれぐらいの予算がベストで、写真がないので内容は分からないが、市場に隣接しているのだから何にせよネタはいいはず。別にウニやイクラがなくっても構わないし、赤身やアジとかサバなど、大衆魚の握りも好みだ。そこは築地、並寿司にも思わぬ掘り出し物があるかも知れない。

 日曜の築地場外でやっている店は、例によってチェーン系の店ばかりである。回転寿司屋を中心に、お客が少ない分普段より客の呼び込み合戦が盛んなようだ。選択肢のない中、奥へ奥へと迷い込み、足は築地西通りへ。するとチェーンの寿司屋ではないのに、店頭で店の人が声を上げてお客を呼び込んでいる寿司屋があった。足をちょっと留めて店頭の品書きを見ていると、店の人にまるで急き立てられるように店内へと導かれる。まだここで食べると決めた訳ではなかったが、日曜でほかに空いている店も少なさそうだったので、追い込まれるままにこの『つきじや』のカウンターへと座ることにした。

 入口の間口は狭めだが奥へ細長い、うなぎの寝床のような店内には、白木のカウンターが長々と伸びている。ここは築地場外の寿司屋の中では比較的新しい店で、市場食堂というよりは街の普通の寿司屋のような印象である。カウンターの向こうには板前氏が数名控え、つけ場が客席より高いので何だか威圧感がある。さらに店頭には呼び込みの人、さらに仲居さんも数名と、店の人がかなり多いのに対して、客は自分ひとりだけ。場外市場を歩いている観光客は割と多かったが、チェーンの寿司屋の呼び込みにひっかかり、このあたりまでは歩いてこないのだろうか。

 中途半端な時間の朝ごはんなので、ささっと食べてしまおうと、注文をしようとしたら「はい、特上ですね!」。まだ何も言っていないのに、向こうで決められてしまっている。この日はそこまでの持ち合わせはなく、あわてて「…いえ、並で」。すると店の人はえっ、並なんですか、といった感じで、びっくりしているやら、苦笑しているやら。あまりに大きな反応に、並を注文するのはそんなに失礼なことなんだろうか、と、客なのにこちらが気にしてしまう。
 
 その並にぎり、マグロ、鯛、カンパチ、イクラ、エビ、ホタテ、かっぱ巻きに玉子というあたりのネタが並んで出された。ここの握りは形がやや縦長で、きめの細かい赤身はしっとり柔らか、鯛は歯ごたえがしっとりと身が甘く、いずれも味のほうは文句なしだ。品書きにあるイワシ、アジ、コハダ、青柳、鳥貝などの握りも気になるが、安いネタを追加で頼むとまた騒がれそうなので自粛。板前や店員は、「並の注文なんて珍しい、久しぶりに握ったよ」「特上との違いはどのネタだったっけ、鉄火巻きとかっぱの差、カニもなかったか」と、食べている後ろや前でまだ声高に話している。

 財布の中身に若干? の余裕があったので、追加で店の名物である穴子焼きを注文すると、仕上げに目の前で皮をさっとバーナーであぶって出された。白身は熱を加えたためほっこり、ツメが甘くトロリ、焦げ目の香りも香ばしい。キュウリがさっぱりと合い、これは酒が欲しくなる一品だ。結局、食べ終わるまで客は自分ひとりだけで、寿司と穴子焼きには満足したがなんだか落ち着かなかったな、と思いつつ店を後にする。まあ、客の入りが今ひとつの中で、せっかく来た客が「並寿司」だったから、店の人も少々面食らったのかも。これからは開いている店も予算も少ない土・日曜は、おとなしくチェーンの回転寿司にしておこう。(6月下旬食記)

町で見つけたオモシロごはん33…京急蒲田  『箱根そば』の、タネが豊富なかき揚げ丼と生そばセット

2006年04月16日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 テレビ東京系の地元情報発信番組「出没!アド街ック天国」で、先日は箱根をターゲットにして放送していた。箱根はこれまでも何度か放映したことがあるらしく、今回は「格安の箱根」という切り口つき。破格の安さで泊まれる温泉宿や、手軽な立ち寄り湯など、いろいろなネタがある中、箱根名物のそばの項目で、意外な店が紹介されていた。それは「箱根そば」。小田急線沿線を中心に展開する、駅のスタンドそばチェーンで、中には生そばを使う店舗もあるなどなかなか本格的。水のいい箱根で名高いそばの名店のついでながらも、ランキング10位でとりあげられているのだから、箱根に行く機会はなくとも? ちょっと気になる存在である。

 京浜急行で都内へ向かう途中に食事をする際、京急蒲田で途中下車することがある。庶民的なムード満点の商店街「あすと京急蒲田」には、定食や丼物、中華など、自分好みの手ごろな値段で食事ができる店が多いからだ。さらにさぼてんやペッパーランチ、麺ロードといったチェーンの飲食店も揃い、小田急沿線ではないが『箱根そば』も商店街の駅寄りに店舗を構えている。このときも中途半端な時間に京急蒲田へ降り立ったため、商店街中ほどの目当ての餃子の店が、あいにくちょうど休憩中。店を選びながらうろうろしている時間があまりなかったので、さっと食べられるそばにするか、とこの店に決めた。

 駅のスタンドそばと違い、京急蒲田店はカウンター席やテーブル席があり、普通の蕎麦屋と同じようなつくり。メニューのほうもかけやきつね、月見といったレギュラー的なのに加え、季節の品や期間限定の品もいくつかあるよう。寒い時期には海老かき揚げそばやけんちんそば、中にはアンコウから揚げそばなんてのも見られる。とろろそばやめかぶそばなどが体にいい、と頭では分かっているが、腹が減っているとどうしてもお腹にたまりそうなのに気持ちが行ってしまう。かき揚げそばに決めかかったところで、さらに「かき揚げ丼セット」というのを発見。もとはといえば中華丼に餃子一皿でガッチリ食べるつもりだったことだし、これぐらいドン、といってもいいか、と頼んでみることにした。

 立ち食い蕎麦屋のように、食券を買って調理場のカウンターへ出してセルフサービスで運ぶ飲食店は、何だか大学の頃の学食を思い出させる。ここも券を出してちょっと待つと、盆の上にそばとかき揚げ丼のふたつの丼が並べられ、自分で運んでカウンターの隅に腰掛ける。まずは、アド街ランキング10位のそばからひとたぐり。ここも生そばをつかっており、腰が結構しっかりして食べ応えがある。つゆが薄めに仕立てられているため、細めのそばは香りがよく、確かに駅のスタンドそばとは一線を画す出来。このチェーン、インターネットの「立ち食いそばランキング」や立ち食いそば愛好家の間でも、評価が比較的高い店なのもうなづける。

 一般的にうまい蕎麦屋は、そばだけでなく丼物のできもいいというが、ここのかき揚げ丼のかき揚げも玉ネギ、ニンジン、ゴボウ、春菊にカボチャと、自家製の揚げたてと称するだけありなかなか充実している。何といっても、丼からはみ出す大きさが迫力モノだ。食べ始めはサックリした食感で、中はトロトロの揚がり具合。つゆが甘ったるくややしょっぱ目で、黒っぽくなるほどどっぷりつけられているのでかなり味が濃い。関東の人はこの醤油ベースの甘いタレを好むが、関西の人だったら見ただけで退散してしまうくどさだろう。

 かき揚げはもちろん、ごはんにもたっぷりとタレがかかっていて、食べ進めていくと胃にはかなりヘビーにのしかかってくる。こういう激濃の味付け、ゴッテリの油モノののおかずで飯を食っていると、再び昔、学食で食べた料理の数々を思い出し、ちょっと懐かしい気分がする。とはいえ全部食べたらさすがに胃がダウンしそうなので、そばは平らげ、かき揚げ丼は3分の1残して店を後にした。その後、仕事についていても胃が少々重く、この日は結局夕食を食べずじまいにしてしまったほど。テレビの情報番組注目の生そばの味をじっくり味わうなら、今度訪れたときこそヘルシーなめかぶそばあたりにしておこうか。(12月食記)

旅で出会ったローカルごはん46…松山・道後温泉 『道後麦酒館』の、道後ビールに鳥料理の数々

2006年04月15日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 中部国際空港を出発した飛行機は無事、松山空港へと着陸。空港から市街へは意外に近く、バスで松山市街を抜け、左手に松山城を見ながら走ること30分ほどで、道後温泉へと到着した。いったんホテルに荷物を置き、ひと息入れてもまだ15時前。窓からは通りを挟んで道後温泉本館の古い建物が見える。さっそく部屋に用意されている浴衣と丹前に着替え、片手にタオルと石けん、靴の代わりに雪駄をつっかけて、ゆっくり午後風呂へと出かけることにした。

 道後温泉は一説によると、日本最古の温泉ともいわれている。温泉街のシンボルは、明治27年建築の共同浴場の「道後温泉本館」。大衆的な「神の湯」と、少しグレードの高い「霊の湯」のふたつの浴室を中心に、広間や個室など休憩所も用意されている。夕食前の軽いひとっ風呂には、銭湯感覚の大浴場「神の湯」がもってこい。暖簾をくぐり、服を脱いで浴室に入ると、中央に浴槽と湯釜、背後の壁には源泉発見に由来する白鷺伝説や玉の石神話が描かれた、砥部焼の陶板画が目に入る。湯船に身を沈めると、湯はややぬるめ。そのおかげでじっくりと入れ、ゆっくりと汗をかいて強行軍の旅程の疲れを癒す。脱衣所でしばらく休憩、お茶のサーバーと備え付けのうちわがありがたい。

 湯あがりには道後温泉本館前から伸びるアーケードの商店街を、名物の坊ちゃん団子をつまんだり、砥部焼きの人形をお土産に買ったりしながら散歩しているうちに、ようやく酒を飲むのに頃合いの時間帯になってきた。あらかじめ選んでいた、にきたつの道沿いにある「にきたつ庵」を訪れたが、まだ17時なのにすでに予約客で満席、この日は受付終了という。松山の地酒「仁喜多津」の醸造元である水口酒造直営の和風レストランで、竹やぶに面した座敷で伊予の食材を生かした桶料理を肴に一杯、を楽しみにしていたが、受付終了なら仕方がない。

 店の人によると、にきたつ庵と同じく水口酒造直営のビアレストランが、道後温泉本館の隣にあるとのこと。歩いてきた道を引き返して、この『道後麦酒館』で腰を据えて飲むことにした。名の通り、ここの名物は日本酒の蔵本の水口酒造がつくる、ブルワリー直送の地ビール。これをグッとやりながら、松山や愛媛の味覚が味わえるのだから、よしとしよう。にきたつ庵と対照的に、まだ客の姿がほとんどない座敷に落ち着き、まずはビール。3種用意された地ビールは、松山を舞台にした夏目漱石の小説「坊ちゃん」にちなみ、ケルシュは「坊ちゃん」、アルトは「マドンナ」、スタウト・黒は「漱石」とのネーミングが楽しい。1杯目は「マドンナ」のジョッキを頼んだら、続いてつまみも選ぶことに。宇和島名物の小魚のすり身の天ぷら「じゃこ天」や、伊予地鶏の今治風唐揚げ「せんざんぎ」など、いかにもビールに合いそうな品々から、店のお兄さんお勧めの「坊ちゃんセット」に決めた。せんざんぎと伊予地鶏の皮焼きに串焼きが3本と、まさに鳥尽くし。さらにウィンナーがつき、値段もお得である。

 突き出しのエビのじゃんがら(生海老の唐辛子風和え物)と、生イイダコのわさび漬けをつまみながら、まずは「マドンナ」ジョッキを軽く1杯。温泉のあとの乾いたのどにはありがたく、どっしりとこたえるのど越しがさすが、本格的。おかわりはケルシュの「坊ちゃん」を追加して、揚げたて、焼きたて熱々の鳥料理にも手を伸ばす。唐揚げは皮がパリッ、中はジューシーに揚げてあり、串焼きも香ばしく、これまたジョッキが進んでしまっていけない。蔵本直営店だけに、ビールのほか日本酒も実力派。さらなるおかわりに「道後麦酒大辛口」を頼むと、ビシッと切れのある酒が旨味凝縮の皮焼きにピッタリだ。気に入ったため、伊予地鶏の皮丼をテイクアウト。ホテルはすぐ隣だし、と残った道後麦酒大辛口もビンごと持ち帰りにして、2次会と締めのご飯はホテルで楽しんでしまった。

 翌朝の帰京前に、ふたたび道後温泉本館を訪れ、名残の朝風呂を楽しんだ。昨日のリーズナブルな神の湯から一転、最高級の「霊の湯・個室利用」だ。床の間があり、花が活けられていたりと風情がある部屋で浴衣に着替えたら、庶民的な神の湯に比べモダンでやや高級感がある霊の湯でゆっくり。風呂から上がって個室に戻り、座敷でお茶をすすりながら、あんと黄味、抹茶の三色の坊ちゃん団子でひと息。湯あがりには地ビールもいいけれど、熱いお茶に甘さの優しいお菓子というのも、朝風呂に似合わしい気がする(3月下旬食記)

旅で出会ったローカルごはん45…名古屋・中部国際空港『セントレア』の、空弁「なごや一番」

2006年04月14日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 ここ数年、地方の新空港の開業ブームである。最近だと神戸空港、北九州空港がオープン、3月の神戸の観光客は一時的に増加し、北九州空港と羽田空港を結ぶ新たな航空会社・スターフライヤーは、連日満席の盛況という。昨年の2月に開業した中部国際空港、通称「セントレア」も、万博効果と名古屋の好景気の影響あって、今のところ利用状況は好調とのこと。地元の見学客の数も依然、相当なもので、今や名古屋屈指の「トレンドスポット」。市民は愛着を持って「せんとりゃあ」と名古屋なまりで呼んでいるとかいないとか。

 名古屋で一泊、その後に空路で愛媛県の松山へ、と妙な旅程で移動することになり、このセントレアを早々に利用する機会に恵まれた。名鉄名古屋駅から空港行きの特急で30分ほど。中部国際空港駅の改札を出ると緩いスロープがターミナルへ伸びていて、すぐにロビーにたどり着いた。羽田や関西空港と比べ、はるかに便利だ。館内の見学もしたかったのでやや早めに到着したため、まずは正面のエスカレーターで4階へ。左手はヨーロッパの路地裏をイメージしたレストラン・ショッピングエリアの「レンガ通り」、右手は日本情緒あふれる狭い路地に、食事どころと店舗が並ぶ「ちょうちん横丁」で、まだ午前中なのにどちらも結構な客で賑わっている。

 レンガ通りはカジュアルフレンチやイタリアン、フードテラスなどの食事どころ、アクセサリーや輸入雑貨のショップなどが集まっていて、レストランは滑走路を見渡す「エアロポルト」が人気。南イタリアの郷土料理やナポリピザが本格的と評判が高く、お昼の開店前から、周辺にはお客の姿もちらほら見られる。一方、ちょうちん横丁は和風レトロな店構えの店舗が並び、なんだか懐かしくホッとする空間だ。ここには何と、日本の空港で初の展望風呂があり、時間があれば入ってみようと思ったものの30分待ちの盛況ぶりだ。飲食店は大エビフライと知多半島沖の魚介が頂ける「まるは食堂」が一番人気で、長い行列ができている。ちくわ、日間賀島のタコの加工品、真珠漬けなど、海産物のみやげ店の店頭も興味深い。話題の「空弁」を扱う店もいくつかあり、タコめしなどもある。

 スカイタウンから出たところの展望デッキで、伊勢湾をバックに離着陸する飛行機を眺めていると、そろそろ搭乗の時間が近づいてきた。さっきの店で「空弁」を買って機内で食べることにして、目に付いたのをひとつ買い込んで搭乗口へ。中部国際空港と松山空港を結ぶ便はDHC8-400という小さなプロペラ機で、離陸して左にセントレアを見て、御在所岳上空を通過、琵琶湖にさしかかったところで弁当の包みを開くことにした。『なごや一番』と、堂々たる名前が付いたこの空弁、名古屋の地鶏・名古屋コーチンと、名物ウナギ料理のひつまぶしがセットになった、名古屋の味が凝縮した弁当である。製造元の「だるま」は、名古屋駅でも古くから駅弁を販売しており、「みそカツ弁当」や「とりめし」といった、ご当地名物の味の駅弁を数多く扱っている。

 箱のふたには「純系名古屋コーチンを使用」とあり、名古屋コーチン普及協会のシールも付いている。うるち米と餅米のご飯と一緒に頂くと、肉は柔らかく地鶏独特のくせもあまりないので、鶏のいい味が濃厚に楽しめる。ごはんに刻んだウナギの蒲焼きを混ぜ込んだひつまぶしには、三河一色産のウナギを使用。身はふっくら、皮が香ばしく焼かれ、タレやご飯によく合う。箸休めはこれまた名古屋名産の守口漬けも入っているなど、まさに本格的な名古屋名物が盛りだくさん。やや値段は高いがそれだけに本格的な味で、冷めてもおいしいように調理されているのもありがたい。

 フライトの短い時間で食べる「空弁」のため、少々量が少なく、もうひとつなにか弁当を買えばよかったかな、と思いつつごちそうさま。飛行機は航行高度5000メートルと低いため、下界の景色がとてもよく、六甲山麓から大阪市街、さらに神戸を見て、尾道上空からしまなみ海道沿いに南下する。新空港のおかげで、あと1時間後には道後温泉本館の湯に浸かっていられそうである。(3月食記)