ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはんbyFb…新世界・ジャンジャン横丁 『丸徳』の、ホルモンそば

2012年05月19日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 大阪ミナミの繁華街は、いわゆるコテコテな街のイメージがある。威勢のいい大阪弁で親父同士でがなり合ったり、ヒョウ柄服にキンキラアクセのおばちゃん同士で掛け合っていたり。新世界やジャンジャン横丁は、そんな人たちが闊歩しているかと思いきや、実際に歩いてみると、言われるほどの濃さは感じない。

 それは一方で、このエリアから大阪の庶民の街らしさが希薄になってしまったことも意味する。件のでかいフグ提灯は言わずもがな、原色派手な朝日の看板や、ビリケンに恵比寿様の巨大オブジェなど、大阪の濃さを極度に誇張した街並みは、大阪風テーマパークといった方がしっくりくるほど。観光名所と化し、カップルや家族連れが通天閣やフグやビリケンをバックに普通に記念写真を撮る様子は、夢の国でお城やネズミやアヒルと写真を撮る感覚と近いのではないだろうか。

 とはいえ、この原色ゴチャゴチャの下町は好きな方で、ミナミに来るとぶらり足が向く。遅いお昼を食べに来たものの、行列の串カツ屋やてっちりてっさなど、大阪ど真ん中系の人気店はそそらない。もっとディープな大阪ワールドにはまりたく、選んだのはジャンジャン横丁を出たところの「丸徳」という店である。看板の文字が剥げた年季が入った店構え、行灯に「ホルモン」の文字、日がまだ高いのに店内にちらほら酔客がいることなど、観光客を寄せ付けないローカル大阪な凄みがそそる。

 
カウンターに落ち着くと、短冊の品書きにある沖縄料理など、酒の肴メニューが誘ってくる。我慢の上、店頭でオススメのホルモンそばを注文。名のとおり、丼のかけそばにホルモン煮がのった、シンプルな料理だが、ひとすすりして驚いた。そばのサッパリ軽さに、ホルモンの脂と肉汁のつゆがベストマッチで、麺を包み込むような内臓系のコクが深いこと。

 
ホルモンはテッチャンに肺、レバーと部位が豊富で、肺のサクサク感にテッチャンのとろみが好対照。モツ煮としても充分すぎるレベルなのに、そばと渾然一体なうまさに箸がとまらず、ザザッとあっという間にかっこんでごちそうさま。

 
大阪の肉食文化は牛肉が中心なので、このホルモン煮も豚でなく牛が使われている。材料の内臓は栄養価が高い上に安価のため、古くから界隈の労働者のための手軽なスタミナ源になっていた。ホルモンそばはさらに、エネルギー源となる麺を組み合わせたのだから、理にかなった労働食といえる。

 ひとりで切り盛りするおばちゃんによると、朝は9時からやっているそうで、翌朝のモーニングは体に優しいホルモンうどんに決定。明日は朝から通天閣など、新世界の定番観光名所をめぐるから、その前に今一度、ミナミの庶民のローカルな味をかみしめていくことにしよう。