暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

考える葦

2010-09-14 | -2010
死んでいく雛鳥
羽毛もはえそろっていない
無垢な死の向こう側に
濡れそぼった死を見ている
あれはカラスという
さっきぼくが殴った
あれはすぐに死んでしまった
死んでいく暇も残さず
あれがありついていただろう
生きるための糧を得ようとしていたところに
ぼくが殴って殺してしまった
死んでいく雛
おまえはミミズを食べたろうか
ぼくはミミズを食べない
雛も食べないが重要なのは
ぼくがカラスを食べないということ
肌色の雛
こちらを見ているのか
見えているのか
何を思うのか
助けてほしいのか
ぼくはおまえを既に助けた
ぼくにそのつもりはなかった
それでも
ぼくはおまえを既に助けた
事実だ
おまえはぼくを助けなければならない
天秤はもう傾いている
ぼくのほうへ傾いている
頭の二分の一を黒い目で覆う雛
あまりにも小さい
カラスだってあまりにも小さい
ぼくからしたらどちらも同じ
雛の方が小さい
だからおまえは何もできないのか
雛は小さく鳴いた
「助けを求めているようだった」
そんなはずはない
たぶんぼくは敵だ

むきだしの肌を土に傷つけられ
苦痛にのたうち回ることも許されない
それを
ひと思いに踏み潰すのは
それとも
そっとすくいあげて家に連れ帰り
粟玉を食わせて飛び立つ日まで見守るのは
善行の天秤にかけるべき
皿がどんどんと増えていく
どれが当たりかわからないのなら
それらすべてに違いがない
もうぼくの善行は果たされた

カラス
足のねじれた死体
虫や鼠がやってくる
あれを食べてしまう
ぼくの代わりに
ぼくは見下ろす
すぐにでも死んでいきそうな雛
おまえもやがて骨だけになる
「なぜ助けたのかと言いたげな目で」
見ているはずはない
助けた理由
無垢な死は善
捕食者の死は悪
それらがほんとうなのか
どちらともに意味はない
意味はないとわかった
カラスの死は無駄だ
ぼくがいたずらに殺したせい
おまえの死は無駄だ
カラスに食べられはしなかった
不運な摂理がある
どれだけ無駄でも
ちいさなちいさな生き物たち
かれらの餌食になるという
無駄では ない
ただ善悪が無駄にする

ただなんでもないぼく
ぼくという人間
雛を見下ろす
ぼくによって
ぼくにとって無駄になった
おまえは何を考えているのか
わかるはずがない
何かをぼくにもたらせないなら、
そのまま死んでいきなさい

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