ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

小便で洪水?-精神障害ー

2010年12月02日 | 精神障害

 私は平成16年に精神病を発症して以来、精神障害者の自助グループで、じつに様々な症状を持った当事者に会ってきました。
  病名はうつ病であったり統合失調症であったり双極性障害であったり社会不安障害であったり、色々ですが、共通しているのは、医学の力を借りなければこの世をまともに生きていくことが極めて困難であると感じていることだったと思います。
 ある症状の当事者を私は滑稽な悩みだと思い、きっとその人は私の悩みを滑稽だと思ったでしょう。
 しかしそれでも自助グループに来るのは、滑稽に見えながら、当事者は真剣に苦しんでいることが分かり、自分のことはさておき目の前のこの人の苦しみを軽減してあげたい、と心底思うからです。

 16世紀ヨーロッパの精神病の症例集に、滑稽というも哀れな症状の患者が例示されています。
 小便をすると自分の尿で町中が洪水になると信じ、小便を我慢している男の話です。
 医者は神父や町長ら町の有力者を呼んで、彼の小便で洪水が起きるはずがないことを懇々と説明しました。
 しかし彼は頑として納得しないのです。
 そこで医者は一計を案じ、町に大火災が起きたことにして、町の警報をすべて鳴らすと、例の男に、ひどい大火事だから、あなたの小便で火を消してください、とお願いしたのです。
 男はそれは大変だとばかり、たまっていた小便を思いっきり放尿しました。
 結果、男は自分の思い込みが誤りであったことを知り、普通に生活した、ということです。

 これなどは、現在でいえば強迫神経症に分類されるんですかねぇ。

 強迫神経症で最も多いのは、ガスの消し忘れや戸締りの不備などが気になって何度も確認せずにはいられず、ついには外出できなくなってしまう、という症例で、私の知り合いにもいました。
 初老の奥様で笑顔が素敵な方で、本人が悩みを訴えるまでとても当事者には見えませんでした。

 精神病患者というと閉鎖病棟に入院させられて奇声を発したり、凶暴な行為をする怖い人たち、というイメージがあるかもしれません。
 そういう人もいますが、圧倒的多数の精神障害者は、生きづらさを感じながら、どうにかこうにか社会と折り合いを付けて生きるべく真面目に努力しています。 
 そしてまた、精神病というのは、ちょっとしたことで罹患します。
 ストレス過多だったり、受け入れがたい不幸が重なったり、ふと気になったことが頭から離れなくなったり。
 それは人間の脳が示す、ストレスや不幸や気になったことへの防衛の結果と考えられます。
 それが過剰であれば病人になり、適度であればタフなやつ、と言われるのです。
 この境目はじつに微妙です。
 誰でも超える可能性を持っています。

 いずれ精神科と脳外科とが融合した新しい診療科ができて、精神障害者を救ってくれるものと期待しています。

こころの科学 144号 (144) 特別企画=こころの悩みに強くなる
原田 誠一
日本評論社

 
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78歳父、ひきこもり50歳息子を殺害

2010年12月02日 | 社会・政治

 なんともいやなニュースを聞きました。
 秋田市の住宅街で、78歳の元銀行員の父親が、大学卒業以来30年近くも引きこもっている50歳の一人息子を金属バットで殴り殺したというのです。
 家族は父親・母親・一人息子の三人。
 犯行時、母親はパチンコに熱中していたとか。
 パチンコ店から帰って、返り血を浴びて放心状態で横になっている夫と、息絶えた息子を発見して警察に通報したそうです。
 父親は警察の調べに、「自分や妻が死んだら息子は生きていかれないと思った」などと証言しているそうです。

 50歳の一人息子の健康状態や精神状態がどうであったのかは分かりませんが、健常者であれば両親が死んだら家を売るなり貸すなりして、まとまった金を作って安いアパートで暮らし、金がなくなったら生活保護を受けるとか、働かなくても生きていく道はあったものと推測されます。
 もし障害者なら障害者年金の受給を申請するという方法もあります。
 いずれにしろ殺してしまったら、あらゆる生きていくための可能性が無に帰してしまいます。

 父親が息子を心配してやむにやまれず凶行に至ったその心情は同情できますが、どこまで息子に過保護なのでしょう。
 大の大人を30年間も養ってやり、親が高齢になったら今度は息子を殺して息子の悲惨であろう老後をないものにしてやる。
 過保護というか過干渉というか、呆れかえった父親です。

 息子の30年間の思いは想像を絶する凄絶な魂の漂流であったことでしょう。
 しかしその激しい魂の遍歴は、両親から与えられる食事、暖かい布団、清潔な風呂など、外的には極めて快適な環境の下に行われていたはずです。
 いわば息子はひきこもっていた間、母親の羊水の中にいるような、あるいは保育器の中にいるような、不思議な安らぎの中で暮らしていたのではないでしょうか。

 そして、庇護者であったはずの父親は唐突に、厳しい現実を、最も苛烈な方法で息子に示しました。
 生きていくことの難しさを青少年の頃に説くのではなく、50歳を迎えて、もはや生活無能力者になってしまった息子に、有無を言わさず、襲いかかったのです。

 恐らく世論はこの父親に同情し、寛大な刑を求めるでしょう。
 しかし私は、厳罰に処してほしいと思います。
 そうでなければ、世にあまたいる長期ひきこもりの人々は、身内から殺されても仕方がない存在だということになってしまいますから。

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社会的ひきこもり―終わらない思春期 (PHP新書)
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マシニスト

2010年12月02日 | ホラー・サスペンス・SF等の映画

 昨夜は暗いDVDを観ました。
 「マシニスト」です。

 一年も不眠に悩む旋盤工の役を、「バットマン」のクリスチャン・ベールが演じています。
 この役のために30キロもの減量をしたというその姿は、絶滅収容所を生き残ったユダヤ人や、バターン死の行軍を生き残った日本兵のような凄惨な痩せ方です。

 一瞬モノクロかと見間違えるほど暗い映像は、独特の灰色と青が印象的で、この映画の雰囲気を盛り上げています。
 不可解な出来事が頻発し、何者かに陥れられようとしていると悩む旋盤工を癒してくれるのは、旋盤工が通い詰める娼婦と、空港のウエイトレスだけ。
 しかしその二人に対してさえ、自分を陥れる組織の一員なのではないかと疑惑の目を向けます。
 職場では同僚を罵倒し解雇されます。
 孤独と絶望のなか、旋盤工を襲う不可解な出来事のなぞが明かされます。

 雰囲気が抜群に良いサイコ・サスペンスです。
 主人公の苦悩が、痛いほど胸に突き刺さってきます。
 そして最後まで謎めいたシーンが連続し、観る者はまるで迷宮を彷徨うかのごとくです。
 ただ、オチは平凡です。
 オチの平凡さを考慮しても、お薦めの一作です。

マシニスト [DVD]
スコット・コーサー
アミューズソフトエンタテインメント


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