私の職場にいるオランダ人の日本史研究者が興味深いことを言っていました。
東京の地下鉄でかなりの金額が入った財布を紛失した、もう出てくるわけがないとあきらめていたら、誰かが拾って警察に届けた、名刺を入れていたので警察から連絡があり、無事手元に戻った、日本人の倫理感は素晴らしい、というわけです。
世界中の大都会で、東京でしかこんな奇跡は起こり得ない、とまで。
ところが不思議なことがある、と続けます。
日本人の倫理意識はこんなに高いのに、なぜエリートの高級官僚や政治家が収賄事件をこんなに頻繁におこすのだろうか、と言うのです。
一つ考えられるのは、政治家や高級官僚を目指すようなやつは、高い確率で悪いやつが多い。
または、悪いやつがいる確率は他の社会と同じだが、政治家や高級官僚を何年もやっていると、誘惑が多く、悪いことに手を染めてしまう確率が高い。
どっちかなんじゃないかと思います。
それを防ぐにはどうしたらいいか?
教育するといっても、日本で最高の教育を受けてきたであろうエリートをこれ以上どうやって教育するのかわかりません。
厳罰化したら、犯罪が巧妙になるだけでしょう。
しかし、もっと身もふたもないことを言っている人がいます。
山本夏彦です。
ワイロは浮世の潤滑油。
汚職は国を滅ぼさないが、正義は国を滅ぼす。
文化は腐敗の時代に生まれた。
どれも言い得て妙ですねぇ。
役人の収賄が発覚すれば当然逮捕起訴するとしても、人間なんてあんなものだ、自分だってその地位に就けば収賄してただろう、と達観していれば大したことではないのでしょう。
むしろ正義を掲げたときこそ危ないですね。
民主主義では多数派が正義になってしまいますから、天皇陛下万歳や大東亜共栄圏や非武装中立や核兵器廃絶など、正義になってはいけないものが多数の支持を得て正義になってしまう危険は常にあります。
お隣、中国が行った文化大革命など、その最たるものでしょう。
山本夏彦によれば、そういう危険を感じたとき、必ず大新聞がそれを煽るから、大新聞が書くことと逆のことをやればうまくいくそうです。
座右の山本夏彦 (中公新書ラクレ) | |
嶋中 労 | |
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浮き世のことは笑うよりほかなし | |
山本 夏彦 | |
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茶の間の正義 (中公文庫) | |
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とかくこの世はダメとムダ | |
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