山口百恵の「横須賀ストーリー(作詞/阿木燿子)には、自分勝手に生きる男と、それに揺れる女心が描かれている。
「街の灯りが映し出す あなたの中の見知らぬ人」。男が初めて見せる顔や言葉、仕草に、彼女は戸惑い、「少し遅れながら あなたの後ろ 歩いていました」。
「話しかけても気づかずに ちいさなアクビ重ねる人」「一緒にいても心だけ ひとり勝手に 旅立つ人」。男は、眼の前に居る彼女よりも大事な何かをもっている。それは他の女ではなく、趣味のような具体的な「何か」でもない。彼女に合わせることができないのは、自分のペースを崩せない、生き方そのものだからだ。
それなりに長い時間付き合っては来た二人だが、彼女はまだ男のことを信じてもいいのかどうかわからない。だから確認したかった。
「あなたの心 横切ったなら 汐の香りまだするでしょうか」。五感の中で、「匂い(香り)」程正直なものはない。見かけや声(言葉)は作ることができても香りは作れない。あなたが今でも変わらないモノ(香り)を持っていたら、それを信じたいと思った。
「これっきり これっきり もう 」、会えなくなってしまうのではないかという不安に怯えながらも、「今日も私は 波のように抱かれるのでしょう」。心と身体は、行ったり来たり、すれ違う。
ところで2番のサビの後半「これっきり これっきり もう これっきりですか」の「か」が、「かあー」と切れずに伸びて、次の「あなたの心・・・」の「あ」に繋がっている。それから3番の「私はいつも置いてきぼり あなたに今日は聞きたいのです」の「あなた」は他所の「あなた」とは違い「覚悟」を決めた声音で歌われる。山口百恵の情感のこもった歌い方は、強過ぎず、弱過ぎず、品格を失わない。それは「ささやかな欲望」「夢先案内人」でも発揮される。
中学生の頃買ったテープと、後に買ったCD