蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ネコは言っている、ここで死ぬ定めではないと

2021年09月23日 | 本の感想
ネコは言っている、ここで死ぬ定めではないと(春日武彦、穂村弘 イーストプレス)

死に関する二人の対談集。

穂村さんは歌人、春日さんは読書家ということで、死生観のバックボーンになっている短歌や作品を語る部分が面白い。
春日さんは医師としてのキャリアの初めは産婦人科医だったそうで、その体験談(産後、子宮からの出血が止まらず、手で直接子宮を抑え続けてなんとか止まった、とか)も面白かった。
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マイ・ダディ

2021年09月11日 | 本の感想
マイ・ダディ(山本幸久 徳間文庫)

御堂一男は古びた教会の牧師。本職だけでは食べて行けずガソリンスタンドでバイトをしている。妻を交通事故でなくし中学生の一人娘を育てている。
その娘が白血病であることがわかり・・・という話。

牧師が主人公で、その牧師役をムロツヨシが演じる映画のノベライズという点に興味を惹かれて読んでみた。

牧師の日常生活を描いた部分をもう少し多くしてほしかったし、ご都合主義的なエンディングではあったが、幸福とは何か?というテーマに向かって話がコンパクトにまとめられていて、楽しく読めて暖かい読後感があった。

本筋とは全関係ないのだが、もとカメラマンで今はホームレスのチューさんのキャラがとてもおかった。
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世界を変えた14の密約

2021年09月11日 | 本の感想
世界を変えた14の密約(ジャック・ペレッティ 文藝春秋)

現代では政策よりも企業活動がより社会に影響を与えている、という著者の仮説を検証している。

①現金の消滅→ヒトは現金を支払う時に痛みを感じるので、キャッシュレスになると過剰な消費が発生する、とする。
②小麦の空売りとアラブの春→アラブの春の原因は穀物価格の上昇で、それを招いたのは食糧メジャーによる空売りであり、それを可能にしたオプション理論だとする。
③租税回避のカラクリ→租税回避の始まりはジョン・レノンへの提案だった。行き過ぎた所得税の節税は一般大衆への間接課税強化につながるとする。
④貧富の格差で大儲けする→国家間の格差縮小と国内での格差拡大は2006年のシティのレポートで予言されていた。中間層は消滅し、貧困層ビジネスが拡大する。
⑤肥満とダイエットは自己責任か→肥満の定義を変えたのはBMIを考えだした1945年のニューヨークの保険会社。ダイエットは必ずリバウンドするからダイエット産業は不滅だ、とする。
⑥国民全員を薬漬けにする→製薬会社は予防的投薬に大きな商機を見出した。本当は不要な薬を大量に販売している、とする。
⑦働き方が改革されない理由→それはテイラーとドラッカーのせいだとする。
⑧終わりなき買い替え→1935年電球メーカーがカルテルを結んで電球の寿命を6か月に縮めることにした。アップグレードは企業のカネ儲けの手段にすぎない。

このあたりまでは、「そういう面もあるけど、そればっかりじゃないでしょ」と言いたい時もあったが、それなりに読み応えがあった。

しかし、9章以降は、同じような話が続いて少々退屈だった。
ロボットやAIが発達すると人間がロボットの仕事を奪おうとするだろう(例えば、洗車機はメンテコストが高いので低賃金労働者に取って代わられている)、という話は面白かった。
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罪の声(映画)

2021年09月10日 | 映画の感想
罪の声(映画)

グリコ森永事件をモデルにして、同事件の真相をフィクションで探った小説の映画化。
原作の方は、グリコ森永事件をなぞって、この事件の謎解きをした部分が長い。本来のテーマである、事件の関係者たちの子供に及んだ悲劇については、後から付け足したような感じがしてイマイチだったかなあ、と思えた。

映画では、上記のテーマがちゃんと主題になっていて、その部分のヒロインである事件の中心人物の娘(生島望=原菜乃華)役がよかったし、終盤はかなり盛り上がりが感じられた。同じような立場にありながら、幸福で平凡な人生を送ることができた曽根(主犯格のおい=星野源)とのコントラストもうまく描かれていたと思う。
総じて、原作よりも出来がよく、予想を裏切って?楽しくみられた。
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海苔と卵と朝めし

2021年09月10日 | 本の感想
海苔と卵と朝めし(向田邦子 河出書房新社)

向田邦子さんと聞くと、私は杉浦直樹さんの顔が思い浮かぶ。
傑作揃いと言われる向田さんのエッセイの中でも父親の登場する思い出話が一番精彩を放っていて面白い。テレビドラマで向田さんの父親役などで出演していた杉浦さんが、この父親の(エッセイから想像される)イメージにあまりにも当てはまっていて、エッセイの中で父親が登場するたび、杉浦さんの顔が脳内に現れてしまう。

本書の冒頭にも採用されている、鹿児島時代の思い出の中に現れる父親、カルメ焼きに失敗した時の父親、時間を経て何度も読んでいるので、向田さんの父の記憶が自分の経験であるかのように再現されるのが面白く感じられる。

今風にいうと、ちょっと上から目線的なところもあるのだけれど、何回も繰り返して読んでも、執筆から数十年を経ていても古びることなく楽しめた。没後30年を経てもエッセイ集が編まれ、評判を呼ぶのだから、そう感じる人が多いのだろう。
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