蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

世に棲む日々

2019年05月26日 | 本の感想
世に棲む日々(司馬遼太郎 文春文庫)

吉田松陰と高杉晋作を中心に、長州藩が(対英戦争、幕府軍との戦争などを経て)革命勢力の中心になるまでを描く。

司馬さんの小説を読むと、登場人物に対する司馬さんの好き嫌いがかなりはっきりとわかる。

本作では松陰よりも高杉の方が贔屓なように思えるし、どんな小説でも山県は嫌われているように思える。
高杉とならんで贔屓されているのは、意外にも井上聞多(井上馨)である。明治期の政治腐敗の先走りともいえる人物で、いかにも司馬さんが嫌いそうなキャラである。ところが本作内では長州藩を転回させた功のかなりの部分は井上のものとなっている。

井上は(小姓のようなことをやっていたので藩主とタメで口がきけたため)「そうせい侯」などと陰口をたたかれるほど意志薄弱だった毛利の当主を口説いたり、対英戦争の終息に大きな役割を果たしたりしたことになっているのである(史実通りなのかもしれないが)。

井上、伊藤、山県と、明治期も長く生きて政府を支えた人物は、長州出身者が多い。彼らは、本作で紹介されているように、幕末期に暗殺されかけたり、反対勢力から追いかけられて流浪をしたり、勝目がとてつもなく薄い(政治的・軍事的な)賭けをせざるをえない事態を繰り返し乗り越えたりしてきた。
そういう海千山千の人物がいるうちは明治国家もうまくいっていたのだと思う。

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