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蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

死ぬまでに行きたい海

2025年02月25日 | 本の感想
死ぬまでに行きたい海(岸本佐知子 新潮文庫)

近所のコンビニの入口に、探し猫の貼り紙があった。17歳でビビリの子とのこと。うーん、猫飼ったことないからわからないけど、飼い主さんには申し訳ないが、猫は死期を悟ると・・・ってやつじゃないの?って思ってしまった。よく見ると迷子のペット捜索専門会社が作ったもののようで、近くのスーパーなどにも貼ってある。けっこうな費用がかかりそうで、飼い主さんの思いが伝わってきた。

本作の「地表上のどこか一点」は、飼い猫が外出から帰ってこなかった体験を描いたもので、そうなったときの飼い主の切実な思いが強く感じられる。

出不精の著者が連載を依頼されて、行きたかった場所を訪問するという趣旨で始まったらしいが、途中コロナの流行があって外出が難しくなって、本書の後半では幼少期や青年期の思い出をたどる内容になる。その、後半の方が圧倒的にいい。私は著者のエッセイのファンなのだが、前半部分は、正直、期待外れだなあ・・・と思いながら読んでいた。

著者は、人生のいろいろな局面で精神的に追い詰められ絶望の極にまで至っているかのように(本書では)告白している。
でも、本書の内容をたどると、中学受験で(多分難関の)中高一貫校に合格し、大学は四谷のミッションスクールで、大学時代は暗黒中の暗黒だったそうだが、就職先は難関中の最難関である洋酒メーカーの宣伝部。で、今は人気翻訳者兼エッセイスト。
おいおい、絶望ばかりしている割に、あんたの人生キラびやかすぎんじゃね、(ド田舎で育って駅弁大学に行ってずっと黒目の会社で働いてきた者からする)と、言いたくなるところだ。

「地表上の・・・」に次いでよかったのは、”酒合宿”を描いた「三崎」だ。三浦半島の三崎にある保養所に7人くらいで、飲み会だけを目的に集まって宴会をする、みたいな話なのだが、とても素敵だった。7人も友達がいないけど、機会があったらトライしてみたいなあ、と思った。