蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ラウリ・クースクを探して

2023年12月26日 | 本の感想
ラウリ・クースクを探して(宮内悠介 朝日新聞出版)

ラウリはエストニアのタリン近郊の村で1977年に生まれる。プログラミングに興味をもち、低機能の8ビットPC KyBT(日本メーカがMSXをベースに開発したものでソ連時代の学校に配備された)で、幼なじみのイヴァンを競い合うようにゲームを開発する。やがてソ連は崩壊し、ラウリはエストニアの紡績工場で働くが・・・という話。

埋もれてしまった天才プログラマを評伝風に描く話なのかな、と思って読んでいると、終盤にドンデン返し的なタネあかしが2つあって、「やられた」と思わせてくれる。

しかし、そういう仕掛けはケレンな味付けであって、本作のテーマは電子立国エストニアをラウリとイヴァンの人生を通して描くことにあると思う。

国家や国民のデータが国外の安全なサーバ(本作ではこれを「データ大使館」と表現している)に保全されていれば、例え領地が失われても国家は滅ぶことはない、という考え方が面白かった。確かに他国に全領土を占拠され、全国民が世界中に散り散りになったとしても、データが保全されていれば、全国民が非居住者であると考えれるなら、国家運営は、非現実的とはいえないかもしれない。
というか、今、隣の大国の侵略を受けている国も(エストニアのすぐそばで、かつ)IT先進国なので、似たようなことを構想しているかもしれない。
コメント
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