蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

飛び立つ季節

2023年12月09日 | 本の感想
飛び立つ季節(沢木耕太郎 新潮社)

国内旅行エッセイ第2弾。
コロナ禍の最中に執筆されたので、旅にいくのにもいちいち言い訳をしているのだが、ごれがなんとも著者らしくない。まあ、当時の世間の雰囲気を思い出すと、著者はよくても編集者が許してくれなかったのかも。

旅行エッセイといっても、著者もおとしだし、「深夜特急」みたいなダイナミックな経験を記すのは望むべくもない。

16歳のころ、著者は初めての一人旅をしたそうで、今でいう青春18切符みたいな旧国鉄の周遊券を握って東北を一周したらしい。本書ではそのころ訪れた先を再訪している話が多かった。
秋田の寒風山に登る途中、ダンプの運転手が便乗させてくれ、帰り道でもまた同じダンプに乗せてくれたそうである。(「旅のリンゴ」)
降りるとき、運転手はリンゴを1個くれたそうで、これが妙に心強く(食べるものがなくなったらそのリンゴを食べればよい、と思えたらしい)、その後、旅立つときにはザックにリンゴを入れておくのが習慣になったそうだ。

「いつか棚」は、いつか読もうと思っている積ん読本を並べておく棚のこと。私も似たような発想で本をよりおけているが、「いつか棚」の本はいつまでたっても読まれないのが常。
しかし、著者はその中の一冊「江戸近郊ウォーク」を読み、三番町から(自宅近くの)九品仏まで歩いてみたという。同書は江戸時代後期の武士;村尾嘉陵の徒歩旅行エッセイ(の現代語訳)で、著者がたどったコースは往復だと50キロくらいあったそうで、村尾は当時72歳だったそう。昔の平均寿命が低いのは乳幼児死亡率が高いからで、大人になった人はそれなりに長生きしたものらしいが、それにしても元気な人だったんだなあ。
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魔女と過ごした7日間

2023年12月09日 | 本の感想
魔女と過ごした7日間(東野圭吾 角川書店)

ラプラスシリーズ第3弾。中3の月沢陸真は二人暮らしだった父(元刑事)を殺人事件で亡くす。事件の真相を親友の宮前純也と解き明かそうとしているうち、不思議な能力を持つ羽原円華としりあい・・という話。

これまでの2作が、ぐっとSFちっくだったのに対して、本作では殺人事件を捜査して犯人を探すというミステリになっていて、円華のエスパーのごとき能力も解決のためにはほとんど利用されない。

タイトルからするとジュブナイル風なのかな・・・という感じもあるが、テーマは社会派(警察によるDNAデータ収集の是非)。

SFかミステリか、犯人探しか社会派か、主役は中学生なのか円華なのか・・・いずれもどっちつかずだったかな・・・という気がしないでもない。
著者のような超売れっ子になれば、シリーズやキャラに頼った作品の連打になりそうなものだけど、ラプラスシリーズは、チャレンジングな設定に挑んでいる意欲作とも言えるだろう。

著者の作品を読み始めるとき、どうしても「秘密」とか「容疑者Xの・・・」といった超傑作を思い出して期待値が高まってしまうのが困りものだ。
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