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蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

大東亜戦争 敗北の本質

2015年08月09日 | 本の感想
大東亜戦争 敗北の本質(杉之尾宜生 ちくま新書)

敗北の本質は情報収集と兵站の軽視にあり、という結論を聞くと「何をいまさら」という感じだし、第一章、第二章はやたらと孫子などの引用があって読むのをやめようかと思った。第三章も「海上護衛戦」の丸写し的内容。

しかし、第四章(「白兵銃剣突撃主義」採用の誤り)はなかなかよかった。

白兵銃剣突撃主義を採用したきっかけは、日露戦争でロシアが(おそらく最新の戦闘思想が普及しておらず)散兵戦ではなく密集突撃戦を繰り返し、これに日本軍が難渋したからではないか、として、日露戦争後、それまで客観的戦力評価による守勢/攻勢の切換を説いていた歩兵操典が白兵銃剣突撃主義、精神性を重視する方向へ改訂されてしまったがことが敗北の遠因だとする。

当時は冷静な見方をする人もいたとして、参謀本部戦史課の小沼少佐のコメントを引用している。(特に後段の夜襲を批判しているコメントは新鮮。やっぱり日本兵も命知らずばかりというわけではなかったということだ)
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「日露戦史は美化されている。戦闘の大部分は陣地攻撃であるが、敵が真面目に抵抗した場合の攻撃は殆ど全部が頓挫しており、成功した例は極めて少ない。敵は退路に脅威を感じて退却しているのだ。機関銃の前に歩兵は無力である。日本軍といえども勝利のためには物的戦力の裏付けが不可欠である」
「夜間攻撃の実相も想像されるような輝かしいものではない、地上に伏せ、命令号令に応じない者が、たんに兵に限らない模様である。かの有名な弓張嶺の夜襲においても、敵火を受けるや連隊長の命に応ずる者もなく、勇敢な中隊長が奮然突進したのは、敵が退却を開始した時であった」
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さらに、日露戦争の統計によると戦傷の原因のほとんどは銃砲撃を受けたもので白兵創は1%に満たないという。統計を多少でも省みれば、白兵銃剣突撃主義が陸軍のテーゼになることはありえなかったはず。やはり、大国ロシアに勝った、という誤った過信が敗北の本質なのであろうか。