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蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

11(eleven)

2014年10月01日 | 本の感想
11(津原泰水 河出文庫)

子どもの頃、近所の大きな神社の例大祭には、必ず大きな見世物小屋ができた。
蛇女だの蛙男だの、おどろおどろしい看板があがり、大きな声の呼び込み(親の因果が子に祟り・・・みたいな)が行われていて、怖がりの私は小屋に近づくことさえできなかった。
さすがに、平成にはいるとそんなものを見かけることはなくなったが、「五色の舟」を読んで、うっすらとそんな昔の情景が浮かんできた。著者が解題で書いているように、初出でこの作品を掲載するのには、編集者にとっても、けっこうな勇気が必要だっただろう。

簡単な描写であっても、奇想天外な登場人物の姿がありありと浮かんできて、そうかといってグロテスクな感じや陰惨なムードはなくて、主人公の冷静な語り口にはむしろ乾いたユーモアさえ感じられた。

「土の枕」もそうなのだけれど、数十ページの作品なのに大長編を読み終わったような感慨があって、久しぶりに長く手元に置いて何度も読み返したい短編に出会えた。

すでに評判の確立した有名な作品で、今さらではあるだが、未読の方がいらっしゃったら、是非に、とおすすめしたい本だ。