蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

64

2014年03月04日 | 本の感想
64(横山秀夫 文芸春秋)

私は本を読み終わった後、メモ帳に自分なりのランキング(1~5)をつけていて、本書は久々に全く迷いなく5と評価できる内容だった。

D県警ものはおおよそ全部読んだが、やはり初めに読んだ「陰の季節」の印象が強くて、警察小説なのに刑事とは関係ない人事などの職務についている警察官が主役になるイメージが強いシリーズだ。

本書の主人公・三上も刑事出身ながら(本人には不本意だが)広報官を務めている。そして「陰の季節」の主役である二渡もチラチラと姿を見せるし、中盤まで県警内部の刑事部門と管理部門、あるいは、マスコミと警察との対立風景がしつこいほどの濃度で描かれるので、「ああ、本書もミステリというよりは警察官僚小説的な作品なのだろうな」と思ってしまった。

そして終盤に差し掛かる頃になって、こうした濃密な描写こそが読者をミスリードする大仕掛けなトリックだったことに気づかされた。
本書は(著者にしては珍しいと言えると思うが)実にミステリらしいミステリで、冒頭から念入りに仕込まれた数々の伏線が、最終盤に「64」事件解決のキーであったことが明かされ、私のようにまんまと騙された読者を(文字通り)仰天させる。
ただ一つ、本書の冒頭から最後まで何度も登場する三上の娘の失踪だけが、ポツンと置き去りにされた感があったのが、少々違和感があった。

D県警の「影の刑事部長」であり、決して驚かない男:捜査一課長の松岡がやたらとかっこいい。松岡を主人公にして、二渡と決定的な対立をするような話が読んでみたいな、と思った。
コメント
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