蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

激しく、速やかな死

2009年08月28日 | 本の感想
激しく、速やかな死(佐藤亜紀 文藝春秋)

フランス革命後の、貴族達の話を中心とした短編集。実際の書簡などから取材したもので、本歌取りのもとが巻末に「解題」として掲載されている。

「荒地」がよかった。
フランスの司教が革命政権に愛想をつかしてアメリカへ渡る。
すでにそこには土地や新規事業のもうけ話が氾濫していたが、「文化」とか「世間」とかといったものを見出すことができず、荒れ果てた原野があるだけに見えた、みたいな話。

「どの村もほとんど同じに見えることはもっと神経にこたえる。だが、一番こたえるのは、そこで生まれ、育ち、年老いた人間がいないことだ。老人に見える男も、働き盛りの男も、その土地では同じく十年しか過ごした事がない」

「世界はわたしが生まれる以前から続いており、わたしが死んだ後も続いて行く。そしておそらくは年若い友人たちや、弟の子供たちや、わたしの知り合いの昔話を耳にした見知らぬ若者たちを通して、わたしのしぐさや口癖や、やったことややらなかったことは暫く空に漂い、それから驚くほどやすらかに、世界のまどろみに溶け込んでしまう筈だった。」

前の引用がアメリカのことで、後の引用が主人公の郷里の話。
アメリカ化、あるいは、荒地化していく日本になぞらえたものだろうか。

後半の引用の続き。
「人間がそんな死に方をすることは二度とない。わたしたちが世界を包んでおいた穏やかな幕は裂けて落ちた。剥き出しになった荒地では、人は並ばされ、指差され、殺される。誰が、にも、いつ、にも意味はない。」
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