蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

難儀でござる

2007年05月19日 | 本の感想
難儀でござる(岩井三四ニ 光文社)

戦国時代の将校クラスの侍や公家、農民、僧侶等の主人公が様々な難題に直面し、ある時は自らの工夫で局面を打開し、ある時は策もむなしく散り、時には何もしないのに問題が解決するさまを描いた短編集。武田家に絡んだ話が多く、時代順に並べられているので、シリーズもののようにも読める。

最後の「蛍と呼ぶな」が(この話だけは武田家と全く関係ない話なのだが)特にいい。主人公は京極高次の部将。舞台は関ケ原前夜の大津城。高次は東軍について大津城に籠城するが西軍に攻めたてられて落城寸前。

高次の姉は淀殿が現れるまで秀吉の最愛の側室、正室の姉は淀殿、正室の妹は秀忠の正室。東も西も最高権力者と最強の関係をもっていたわけだ。後世からみれば信じがたいほどの完璧な血縁・姻戚関係で、こんな人がなんで侍として合戦をしていたのかと思わずにはいられない。城が落ちようが落ちまいが命や禄をなくしてしまう可能性はほとんどない。
大津城が降伏したのは関ケ原の当日で、この本の中では、マヌケなタイミングとされているが、もしかしたら、万一西軍が勝った場合に備えての行動だったのかもしれない。
室町初期から続く名家の遺伝子が、完璧な姻戚と抜群のバランス感覚を与えたのだと考えられなくもない。

現在の総理大臣が共感した本である、とオビの宣伝文句にあった。真偽は確かではないものの、下級官吏ならともかく、国のトップに立つ人が、下積みの悲哀やしたたかさみたいなものを描いた本に共感してもらいたくない、と、その統治下にある国民としては思う。
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