今回は松屋町筋を南下して口縄坂を東へ上り、そこから
細い道をクネクネ曲がりながら愛染坂を下るまでの話です。
松屋町筋を南へ歩くこと約10分。やがてそれらしきものが見えてきました。写真左のお寺の壁のそばに建っている碑です。
ここを左に折れると、その道が口縄坂です。
案内板には「坂の下から眺めると、道の起伏がくちなわ(蛇)に似ているところからこの名が付けられたという」とありました。蛇のことを「口縄」とも言うのですね。広辞苑を引いてみると確かに「くちなわ」という項目があり、「蛇の異名」と書かれていました。蛇の姿が朽ちた縄に似ているところから「くちなわ」になった、とのこと。いろいろ勉強になりますわ(笑)。
しかし、蛇に似ているんだったら、坂道もクネクネしているのかな、と思いますが、わりに真っすぐです。有栖川さんの小説「幻坂」では、登場人物が「石段が蛇腹みたいに見えるからやろ?」と言う場面が出てきます。そういうことなんでしょうかね~
口縄坂を上がると、ごく普通の街並みですが…
坂を上がったところに御影石の碑が建っていました。キラキラと黒光りする表面に、織田作之助の「木の都」という小説の一節が刻まれていました。
「口縄坂は寒々と木が枯れて、白い風が走っていた」
という文章で始まっています。これも後から調べて知ったことですが、「夫婦善哉」などで知られ、戦前・戦中の人気作家だった織田作之助は、この界隈で生まれ育ったということです。でも、33歳という若さで他界しています。
ここから次の愛染坂へ行く道が、ちょっとややこしいのです。2年前にも同じコースを歩いたのですが、その時は道を間違って引き返したりしました。今回も少し戸惑いましたが、地図を見たりアテにならない記憶を呼び起こしたりして、狭い道を右へ曲がり、次の角を左へ曲がり、さらに次の辻を右に曲がったりしながら、どうにか愛染坂にたどり着いたのは自分として上出来でした。僕はもともと方向音痴ですので。
4つ目の坂である愛染坂は、その名のとおり、坂の下り口にある愛染堂勝鬘院(あいぜんどう しょうまんいん)から名付けられました。「愛染さん」で有名ですね。
右が「愛染さん」こと愛染堂勝鬘院。正面に見える鳥居が大江神社。
ところで、「愛染かつら」という、昭和10年代に大流行した映画をご存知でしょうか? この「愛染かつら」という題名は、この愛染堂勝鬘院の中にかつらの木があって、それに由来した題名なのだそうです。
そして映画の主題歌も大ヒットしました。「旅の夜風」という題名ですが、「花も~嵐も~踏み越えて~♪」という歌をご存知の方も多いと思います。この歌を歌っているのは男女のデュエットなのですが、男性の方が霧島昇という当時の人気歌手でした。うちの母が熱烈な霧島昇ファンで、自分の子供にも同じ「昇」という名前をつけたほどです。その子供というのが…まぁ、僕なんですけどね。これはホントの話です。ハイ。
話が脱線してしまいましたが、その愛染さんの門前を通り過ぎたところに、大江神社があります。昔、ここへ来て芭蕉の句碑を見て感激したことがありますが、この日、神社の鳥居をくぐってその碑を見ると、老朽化してきたのか字句がほとんど読めませんでした。碑には、
あかあかと 日はつれなくも 秋の風
…と刻まれているはずなんですけどねぇ。
「字が薄すぎて読めな~い!」
と、ハズキルーペCMの渡辺謙さんみたいに大声で叫びたいですわ。
この辺りは高台なので、西に沈んでいく夕陽がとても美しいそうです。きっと芭蕉も「あかあかと」した夕陽に感じ入って句を詠んだのでしょう。地名も、このへんは「夕陽ヶ丘」ですしね~
右が大江神社で、左が愛染坂です。
さてその大江神社から、愛染坂を下ります。
きれいな石畳が続きます。
小説「幻坂」では、たまたま愛染坂ですれ違った一組の男女の、その後の数奇な運命が描かれています。そのシーンを思い浮かべながら、「誰かとすれ違わんかなぁ」とふと思ったりしたのですが、残念ながら一人の人ともすれ違わないまま、下まで来てしまいました。
何を考えてるんでしょうね、ボクも。
ゴミの袋を見て、あぁここも生活の場なんだと、改めて思った次第です。
ではでは、これで4つの坂を巡りました。あと3つですが、特にこの次の清水坂は、清水寺もあり、おまけに清水の舞台もあり、大好きなスポットです。
それにしても、天王寺七坂の散策をブログに書くとなると、間違ったことは書けないので、いろいろと確認したり、調べたり、有栖川さんの「幻坂」をまた読み返したりして、時間を費やしますが、いい勉強になります。
ブログに書かないのなら「はい、行きました。はい、おしまい」ということになりますが、その点、書くとなると頭を使いますね~。やはり、読んでくださる皆さんに、少しでも自分の経験や感覚を正確にお伝えしたい…と念じていますので、ありったけの知恵を絞ってやっております。
ありったけの知恵を絞って、これかいな? と言われそうですけど(ぐすん)。