電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

百年文庫「響」を読む

2012年04月17日 06時03分06秒 | -外国文学
ポプラ社のシリーズ「百年文庫」から、第13巻『響』を読みました。ヴァーグナー「ベートーヴェンまいり」、ホフマン「クレスペル顧問官」、ダウスン「エゴイストの回想」の三編が収められています。この冊子を手に取ったのは、もちろんヴァーグナーの「ベートーヴェンまいり」がお目当てで、ワーグナーとベートーヴェンという取り合わせが興味深いものです。中部ドイツで生まれ、まだ貧しく無名の作曲家だった青年ヴァーグナーが、お金のためにガロップ(ギャロップ?)やポプリなどの軽い音楽を書いて旅費を工面し、メッカを目指す巡礼のように、徒歩でヴィーンを目指します。途中で知り合った、金持ちで俗物のイギリス人に妨害されながら、ベートーヴェンに面会し、筆談に成功するエピソードを回想する形になっていて、なかなか面白い読み物です。

もちろん、あの悪漢ヴァーグナー(^o^;)が、脚色なしに正直に一部始終を描いているとはとても思えませんので、その点は割り引いて読んでいましたが、巻末の解説を読んでいたら、案の定、ヴァーグナーは生前のベートーヴェンとは一度も会っておらず、実際にはベートーヴェンの死後にウィーンを訪れているのだとか。やっぱりね!

ヴァーグナーがベートーヴェンのある面を崇拝し、研究したのは確かなことでしょうが、その後の歩みの方向性はだいぶ違いました。人々の感情の内奥に直接に訴えかけるような音楽を志向したという点では共通性もありますが、今の私はヴァーグナーの巨大な楽劇よりも、ベートーヴェンのピアノソナタや室内楽などに、より魅力を感じてしまいます(^o^;)>poripori

ホフマン「クレスペル顧問官」、ダウスン「エゴイストの回想」も印象的な佳編ですが、ヴァーグナーとベートーヴェンという巨人の前には、やや色あせてしまった感があります。
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