電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山響第221回定期演奏会で西村朗、チャイコフスキー、ブラームスを聴く

2012年05月20日 06時05分11秒 | -オーケストラ
平日の夜、花の金曜日にもかかわらず、高速で車を飛ばして、ようやく19時の開演に間に合いました。山形テルサホールで行われた、山形交響楽団の第221回定期演奏会です。本日のプログラムは

(1) 西村朗 「弦楽のための悲のメディテーション」(山形交響楽団創立40周年記念委嘱作品)
(2) チャイコフスキー 「ピアノ協奏曲第1番ロ短調Op.23」(Pf:ダニール・トリフォノフ)
(3) ブラームス 「交響曲第2番ニ長調Op.73」
  演奏:飯森範親指揮山形交響楽団

というものです。

入場したとき、プレトークはすでに終わりに近く、なにやら飯森さんがエプロン姿で話をしています。SUN&LIV「山形代表」というストレート果汁100%のジュースのデザインのものらしく、黒地に黄緑色でラフランスが描かれています。こんど、モンテディオ山形と山響とのコラボで売り出す(*1)らしく、ゲストの西村朗さんから「指揮者をやめて料理でもやっていけるのでは」と、盛んに冷やかされていました。
まあ、それは冗談として、最初の曲目、西村朗さんの作品は、本人曰く「創立40周年を祝して渾身の力をこめて作曲した」ものだそうで、飯森さんがさかんに「難しい!」を強調していました。西村さんは、チャイコフスキーとの間には140年ほどの間があるけれど、人間は変わっていないのに、人間は知らなくてもいいことが起こってきたと言い、悲しみに対する同情や共感を念頭に置いていると説明します。フーガの最高峰といえばJ.S.バッハですが、この曲でもフーガが3回出てきて、いずれも断ち切られる。フーガの秩序の苦しさを表しているそうです。西村さんは、山響の弦楽セクションに惚れ込み、山響弦楽セクションのために書いたとのこと。ただし、フーガなので誤魔化せない、とも。飯森さんは、山響の弦楽セクションの素晴らしさが、きっと理解してもらえると思う、と語り、期待が高まります。

弦楽合奏の配置は、指揮者を中心に、左から第1ヴァイオリン(10)、第2ヴァイオリン(8)、ヴィオラ(6)、チェロ(6)と並び、正面奥にコントラバス(4)が配置されます。
不安気な始まりは、コントラバスが入ることにより強調されます。第1ヴァイオリンの緊張感に富む澄んだ音色、意図的な音のずらしや、コントラバス等に日本民謡風な連想をさせる音もあります。そこで連想されるのは、失われた暮らしや民謡です。心地よい和声はありませんが、合奏は調和があります。多くの悲しみが絡み合って立ち昇るさまを、客観的に描くというよりは、半ば主観的に、半ば客観的に描いたものでしょうか。津波や原発事故による人々の悲しみを、ミツバチのぶんぶんいう羽音に置き換えたらどんな音がするのでしょうか。思わずそんな連想をしてしまいました。
演奏がすごく難しいという話だったけれど、難しそうな様子はぜんぜん見られず。山響弦楽セクションの実力発揮でしょうか。

続いて、チャイコフスキーです。楽器の配置が変わります。ピアノを中心に、左から第1ヴァイオリン(10)、チェロ(6)、ヴィオラ(6)、第2ヴァイオリン(8)の対向配置。正面奥へ、フルート(2)、オーボエ(2)、クラリネット(2)、ファゴット(2)、ホルン(4)、トランペット(2)、最奥部にトロンボーン(3)、その左脇にコントラバス(4)というものです。
ピアノは、ダニール・トリフォノフさん。たしか、各種音楽コンクールに入賞・優勝した後に、チャイコフスキーコンクールで、ピアノ部門はもちろんですが、他の部門を含めての総合グランプリを獲得した逸材とのこと。どんな人か興味津々、期待が持たれます。ステージに登場したソリストの姿を見て、驚きました。若く細身で長身で、女性が放っておかないタイプでしょう(^o^)/
演奏が始まり、驚きました。すごい!「見事」の一語に尽きます。50年に一人の逸材という飯森さんの評価も頷けます。第1楽章で、フルートに寄り添うピアノの高音域の動きは優しく、オーケストラの全奏と張り合うときのピアノの強打は激しく、しかもリズムは精確で、うねるように強弱のニュアンスをつけています。ピアノをよく響かせ、コントロールしています。音と音の間に音楽がいっぱいつまっているような運び方です。なめらかな運指、うっとりするようなカデンツァ。思わず拍手が出るのも理解できます。
ピツィカートで始まる第2楽章でも、思わず完璧なチャイコフスキーと言いたくなるほど見事なピアノに、意図をよく理解したオーケストラの繊細な演奏を楽しみます。オーボエがお見事でした。第3楽章も、ティンパニの一撃に続き、ピアノとオーケストラのアレグロ・コン・フォーコ。メモもせず、ただ演奏に聴き惚れました。

演奏が終わったあとのトリフォノフさん、実に嬉しそう。演奏がうまくいき、聴衆に届いているという実感があったのでしょう。拍手にこたえ、アンコールはリスト編のシューマン「献呈」。この曲、キーシンのライブ録音でも聴いています(*2)が、シューマンの音楽がリスト風に変わり再びシューマン風に戻る、あの音楽が眼前で展開される見事さに、ただうっとりと聴き惚れておりました。山響の皆さんも、楽器や弓を置いて、手で拍手をおくっていました!

鳴り止まぬ拍手で、もう一つアンコールを。ヨハン・シュトラウスII世の歌劇「こうもり」序曲。いつもの「こうもり」序曲が、ラグタイム風のところが出てきたり、実に自由な演奏になっています。あらためて唖然呆然、これはすごい!



皆さん、6月には東京でも「西村朗・チャイコフスキー、ブラームス」という同じプログラムで演奏会があるようですので、ぜひご自分で確かめてください。ダニール・トリフォノフさん(*3)、「半世紀に一人の逸材」というのは確かだと思います。

さて、休憩時間には山響の新しいCDを見つけて購入しました。それが、これです。



先のニューイヤーコンサートを収録したもので、ライト・クラシック中心の選曲ですが、ワーグナーとヴェルディはクオリティの高い合唱がついていますので、贈り物にも好適でしょう。当方も、ちょいとヒソカな計画あり、です(^o^)/

15分の休憩の後は、ブラームスの交響曲第2番です。楽器編成上の変更は、トロンボーン(3)の隣にチューバが加わったくらいでしょうか。

第1楽章の始まりで、低弦の音にホルンが加わるのを聴いて、ブラームスの音だと感じました。山響は二管編成のオーケストラですが、ブラームスの響きのバランスはしっかりと出ていて、分厚い音ではないけれど、内省的な人間が珍しく伸び伸びとペンをふるった音楽と感じます。金管の一斉吹奏の後の弦の中低音部に現れる憧れの旋律も、まぎれもないブラームスのものです。ホルン・ソロもお見事で、フルートとオーボエの組み合わせも、先ほどのチャイコフスキーとは違った風情になるのですね。
第2楽章、低弦にホルン、チューバ等で始まります。Hrn,Fg,Ob,Flの見事な絡み合いや、Clと1st-Vnがともに奏でる旋律、響きのブレンドの具合の見事なこと。
第3楽章、田舎風ののどかな響きを持った優雅な音楽です。速い部分もあり、森の小動物の動きのようです。曖昧模糊としたブラームスではなくて、明瞭で繊細なものです。再びはじめののどかなオーボエの旋律に戻り、終わります。
第4楽章、フィナーレ。弦楽合奏の響きのバランスが素晴らしく、これに管が加わり、柔らかいがときどき固さを要求するというブラームスの響きになります。重量級の響きと雰囲気ではないけれど、推進力を感じさせ、テンポ良くクライマックスに入ります。あ~、ブラームスを聴いたなぁ!と心地よい満足感がありました。

終演後、恒例のファン交流会が行われました。トリフォノフさん、すっかり注目の的で、



少しはにかみながらも、誠実な受け答えには、たいへん好感を持ちました。



山響については、練習の最初から、ピアニシモの部分も自分の意図をよく汲んでくれて、とても弾きやすかった、とのこと。どうやら、トリフォノフさんと山響の出会いはかなり好感度の高いものだったようです。



西村さんも、若いトリフォノフさんにすっかり注目のようで、自分の曲の話の前に、「すごいですね~」を連発していました。でも、「現代音楽も弾いてほしい」と、しっかりと希望を述べていましたね(^o^)/
N響アワーが終わり、西村朗さんのお話を毎週聞くことはできなくなりました。本当は、「N響アワーが楽しみでした」とご挨拶したかったのですが、なにせ人見知りするほうなものですから(^o^;)>poripori
山響で、あるいは別のテレビ番組等で、またお会いできれば嬉しく思います。

(*1):果汁100%ストレートジュースSUN&LIV「山形代表」:山形食品株式会社
(*2):R.シューマン(リスト編曲)「君に捧ぐ」を聴く~「電網郊外散歩道」2007年2月
(*3):ダニール・トリフォノフさんのブログ(英語)


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