電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

モーツァルトの蔵書

2005年03月19日 12時15分46秒 | -ノンフィクション
岩波現代文庫で、海老澤敏著『変貌するモーツァルト』を読んだ。興味深い内容がたくさんあったが、特に「モーツァルトの知的生活を垣間見る」という章が面白かった。
モーツァルトの遺品目録の中で、書物は計43点、124冊あるとのこと。具体的な書名一覧は省かれているものの、この量をどう考えるべきだろうか。洪水のような出版点数、家庭で置き場所に困るほどの蔵書を基準とすれば、貧弱な蔵書だといえようが、18世紀の自立した音楽家という条件を考えれば、少なくない数量だと思う。
蔵書の質にしてもそうだ。同時代のゲーテやギリシア時代を代表するホメロスなどの作品がないからといって、水準の低い貧弱なものだと言ってよいのだろうか。著者は、こういう問いを発している。たしかに、私たちの蔵書を、大江健三郎や川端康成がないからといって、文学に理解のない、低い水準のものだと言ってよいか。単に、好みが違う、というだけではないか。モリエールやグリム、クロプシュトック、ボーマルシェ、メタスタージオ、ゲレルト、シェークスピアなどの作品が含まれた蔵書は、厳選された、最後まで手元に置きたかった本として受け止めるべきではないのか。
だから、モーツァルトを音楽家としては高く評価するが、彼の知的生活には見るべきものはない、とするのはいかがなものか。
これは、たいへん大事な指摘のように思う。
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