電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平『竹光始末』を読む

2008年04月05日 16時48分23秒 | -藤沢周平
単身赴任のアパートでは、インターネット接続もまだ開通せず、ノートパソコンに接続した小型スピーカで音楽CDを聴くか、手元に準備した数冊の文庫本を読むくらいしか、当面は楽しみがありません。新潮文庫『竹光始末』に収載された6編は、いずれも下級武士や職人、店の奉公人などが主人公の、藤沢周平らしい小説世界です。

第1話「竹光始末」。小黒丹十郎親子がようやくたどり着いた海坂藩では、新規召抱えはすでに終わっておりました。頼りにして来た柘植八郎左衛門は、親子に同情し、上意討ちに成功すればという条件で、新規に70石の禄を提示します。ですが、当座の生活のため、既に大刀を売りはらい、竹光となっていたのでした。映画「たそがれ清兵衛」のエピソードの原作の一つです。
第2話「恐妻の剣」、馬場作十郎が藩命により討手として修羅場をくぐっても、妻は剣術など一俵の扶持も増えるわけではないと軽視し、あまり出来の良さそうではない息子の学問に期待しているようです。恐妻家のリアルさが面白い作品です。
第3話「石を抱く」、博奕から足を洗い、石見屋という太物屋に奉公に入った直太は、主人の新兵衛が妾を囲い、粗末にされている正妻のお仲に同情しています。お仲の弟でやくざ者の菊次郎が権三を殺しますが、その疑いは直太にかかります。取り調べの石抱きの責め苦にも、直太はお仲の名を出さず、じっと耐えます。運命に抗う男の意地を描くとき、藤沢周平は本当にうまい。
第4話「冬の終わりに」、いかさま賭博の上がりの50両を持ち逃げしてしまった磯吉は、追われて逃げ込んだ家で、病の娘を助けます。不幸な母娘をかばううちに、偶然に博徒の追求から逃れることができ、ようやく不遇だった冬の終わりを知ります。緊迫感が解け、ほっとする幕切れです。
第5話「乱心」、道場仲間である清野民蔵の狂気を垣間見た新谷弥四郎は、藩主の命に対し、討手となることを申し出、乱心した民蔵を討ち取りますが、後に挨拶に来た美貌の妻の中に、彼の不幸の原因を見るのです。
第6話「遠方より来る」、家もなく妻子の煩いもない、お気楽な曾我平九郎と、物頭に昇進し気苦労が多くなるであろう三崎甚平と妻子。その対比が、ほんの少しのうらやましさと、一抹の寂しさを感じさせます。

文庫本の奥付を見たら、前回の単身赴任の春に一度読み終えており、今度が二度目の読了でした。ちょいと感慨深いものがあります。

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