電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

「ピアソラの軌跡〜生誕100周年記念コンサート」を聴く

2021年12月22日 07時03分28秒 | -オーケストラ
今年も10日を残すばかりとなった21日の夜、山形テルサホールで「ピアソラの軌跡〜生誕100周年記念コンサート」を聴きました。アストル・ピアソラといえば、アルゼンチン・タンゴの革命児とよばれ、1970年ころのNHK-FMで放送されていたラテン音楽の番組では、非常に尊敬され別格に扱われていたというのが最も古い記憶です。その後、1990年代あたりだったでしょうか、例えばヴァイオリニストのギドン・クレーメルがピアソラの曲を取り上げたアルバムを作るなどブームを呼び、現代?クラシック?音楽の作曲家としても認識するようになりました。今回は、そんなピアソラの生誕百周年を記念してのコンサートで、どちらかというとマニアックな音楽ファンが集まったような印象です。

本日のプログラムは、次のとおり。

  1. 「タンゴの歴史」よりカフェ1930
  2. 「タンゴの歴史」よりナイトクラブ1960
  3. アヴェ・マリア
  4. リベルタンゴ
  5. アディオス・ノニーノ
  6. ギターとバンドネオンと弦楽合奏のための二重協奏曲
  7. プンタ・デル・エステ組曲

ステージ左側にギターの徳永真一郎さん、右側にバンドネオンの渡辺公章さんが座り、「タンゴの歴史」から2曲をギターとバンドネオンのデュオで演奏します。席数800程度の山形テルサホールはよく響くホールであるとはいえ、さすがにギターの音はマイクで拾って拡声していますが、ごく自然なものでクラシックギターの音が快く響きます。そしてバンドネオンをナマで聴くのは文翔館でヴィヴァルディの「四季」とピアソラの「ブエノスアイレスの四季」を交互に演奏した演奏会(*1)以来です。手風琴と言ったら良いのか、独特の音色、息の長い響きが魅力的です。ギターの徳永さんは、プログラムにあった吉田修さんが急病のため急に代役を頼まれての出演だそうですが、ほんとに素晴らしいギター演奏でした。
演奏の後で、渡辺さんのトークでギタリストの紹介がありました。
続いて「アヴェ・マリア」と「リベルタンゴ」。「リベルタンゴ」はスペイン語で自由を意味する「リベルタ」と「タンゴ」を組み合わせたピアソラの造語だそうで、「自由なタンゴ」という意味でしょうか。「リベルタンゴ」はおなじみですが「アヴェ・マリア」は初めて。これも良かった。
ここでギターの徳永さんが退き、再び渡辺さんが話します。作曲家ピアソラの紹介で、ニューヨークで生まれ、ジャズの影響を受けながら父親から買ってもらったバンドネオンに親しみ、やがて父の故郷アルゼンチンに渡りアルゼンチン・タンゴの演奏に従事します。クラシックの作曲家を志し、奨学金を得て30代でパリに留学。今年が百周年ですから生誕は1921年でしょうから、30歳と言えば1951年ころ、まさに私が生まれるあたりがパリ留学の時期というわけです。そこで師事したナディア・ブーランジェに、クラシックを目指した作品は凡庸だけれど、タンゴをベースにした作品は評価され「あなたはタンゴをやるべきだ」と言われてタンゴの革命の道に進んだ、ということでした。
前半の最後は、バンドネオンの独奏で「アディオス・ノニーノ」。プログラムの曲目解説によれば、「遠い外国で父親の訃報に接したピアソラが父のために一晩で書き上げた曲」だそうで、ピアソラは毎回この曲をプログラムに加えたのだそうな。ノニーノとは父親の愛称だそうで、俗っぽく言えば「さよなら、父ちゃん!」でしょう。若いときは父親に反発しても、父親の恩を感じる心は年齢と共に深まるばかり、といったところでしょうか。

ここで15分の休憩です。

後半のプラグラムは、ギターとバンドネオンに弦楽合奏が加わります。中央にギターとバンドネオン、その後方中央に指揮者、これを囲むように、左から第1ヴァイオリン(4)、第2ヴァイオリン(3)、ヴィオラ(2)、チェロ(2)、コントバラス(1)と、4-3-2-2-1 の弦楽5部です。「ギターとバンドネオンと弦楽合奏のための二重協奏曲 "リエージュに捧ぐ" 」は、第1楽章:イントロダクション、ギターから始まります。いい音色、素晴らしいソロです。バンドネオンが入ってくると、独奏楽器どうしが二重奏を演じ、再びギターのソロとなった後にバンドネオンと弦楽合奏が入ってきます。ときにギター協奏曲ふうに、ときにバンドネオン協奏曲ふうに、そして二重協奏曲に。やはり独特の響きです。第2楽章:ミロンガ。ミロンガというのはアルゼンチンの4分の2拍子の舞曲だそうですが、バンドネオンで始まり、リズミカルに、かつアクティヴに。弦楽はお休みで、バンドネオンとギターの二重奏で終わるかなと思ったら、第2楽章と第3楽章「タンゴ』は切れ目なく演奏されたようで、再び弦楽合奏と一緒に反復するリズムに。これは面白い。

本日のプログラム最後は、弦楽5部に木管楽器〜Fl,Ob,Cl,Fg:(各1)〜が加わり、バンドネオンとオーケストラによる「プンタ・デル・エステ組曲」です。ウルグァイ東部のリゾート地の名前を取った組曲は、バンドネオン協奏曲みたいな音楽です。第1楽章:イントロダクション、これは木管楽器が加わったことによる響きですね。金管が入ると、バンドネオンの特徴が打ち消されてしまうのかも。第2楽章:コラール。バンドネオンのソロがいいなあ。ファゴット、クラリネット〜と木管が交代していくとバンドネオンと響き合う。弦楽が加わり、優しい音色を響かせます。コンサートマスターのヤンネ舘野さんの甘美なヴァイオリンとバンドネオンの二重奏もいいなあ! 下降音型で終止かと思ったら、再びバンドネオンとチェロとコントラバスとファゴットという低音楽器の組み合わせの響きも魅力的です。第3楽章:フーガ。バンドネオンから始まり、これにコンサートマスターのVnに2nd-Vnのトップが加わり三重奏に、さらにオーケストラがぜんぶ加わって速いテンポでアクティブに。うーん、満足。

聴衆の拍手に応えて、アンコールは「Oblivion(忘却)」でした。これもいい曲ですね〜。久々にバンドネオンとクラシックギターのナマの音に接し、ピアソラの音楽を堪能し、特別オーケストラのメンバー中に山響の団員の皆さんのお名前を見て喜び、長身の若い指揮者、松井慶太さんの名前を覚えて、新型コロナウィルス禍の2021年の演奏会通いもこれで「締め」かなと感慨にふけりながら雪道ドライブで帰りました。

(*1): 文翔館でヴィヴァルディ&ピアソラの「四季」を聴く〜「電網郊外散歩道」2018年7月

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