電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形交響楽団第280回定期演奏会でハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンを聴く

2019年11月25日 06時01分26秒 | -オーケストラ
晩秋の日曜日、午前中に雨水の排水枡のフタが壊れていたのでホームセンターから同サイズのものを購入、交換するなど外周りの仕事を済ませ、午後から山形交響楽団の第280回定期演奏会にでかけました。

最近、当ブログにも新しい読者の方が増えているようですので、あらためて山響こと山形交響楽団(*1)について簡単にご紹介すると、1972年に創立名誉指揮者・村川千秋氏を中心として設立された、東北では最も歴史のあるプロ・オーケストラで、現在は飯森範親氏を芸術総監督に、「モーツァルト交響曲全集」CDの発売などに見られるように高い演奏水準を示しています(*2)。
私も、山響にとって困難な時代であった1980年代からときどき演奏に接しており、演奏水準の向上に喜んでおりました。飯森さんが常任指揮者となった2004年からはほぼ毎回のように定期演奏会に参加するようになり、頼まれたわけでもないのに、このブログを通して素人音楽愛好家の素朴な感想をレポートしてきており(*3)、すでに15年になります。

会場となるのは、山形駅西口の南西にある「山形テルサホール」です。ここは、収容人数が800名程度の中規模ホールですが、多目的ホールとくらべて音響が良いのが特徴で、客席とステージの距離の近さもあり、聴衆の反応が演奏者にじかに感じられるホールだそうです。通常の定期演奏会は、土曜の夜19時からと日曜午後15時からの二回公演となっており、今回、私がでかけたのは日曜のマチネでした。

会場に入ると、団員の有志の方々が、14時半頃からロビー・コンサートで迎えてくれます。今回は

モーツァルト ディヴェルティメント(喜遊曲) ハ長調 K.188(240b)
 フルート:足立祥治、小松﨑恭子 トランペット:井上直樹、松岡恒介
 ホルン:関谷智洋、岡本和也、伊藤数仁 ティンパニ:平下和生

という、野外で演奏されたらしい6楽章の楽しい曲でした。



さて、今回のプログラムは、チェリストで指揮者の鈴木秀美さんが古典の真髄を描くもので、

  1. ハイドン 交響曲第26番 ニ短調「ラメンタツィオーネ」
  2. モーツァルト 交響曲第40番 ト短調 K.550 (第1稿第2段階)
  3. ベートーヴェン 交響曲第3番 変ホ長調「英雄」作品55
       指揮:鈴木秀美、演奏:山形交響楽団

というものです。

実は、山響の定期演奏会では、演奏前に指揮者と専務理事で事務局長の西濱秀樹さんがトークをするのが恒例になっています。この掛け合いがけっこう関西風ギャグのおかしさがあって、実はひそかに楽しみにしているのですが、今回は西濱さん、鈴木秀美さんに押されてましたネ(^o^)/
話の中身で興味深かったのは、モーツァルトの40番の交響曲の件。クラリネットを省いた形で作曲した第40番の第1稿を見なおして、クラリネットを入れたのが第2稿ですが、モーツァルトはもう一度第1稿に戻って弦楽パートにもさらに手を入れているようなのです。そんなわけで、今回の演奏はその第3稿とも言うべき「第1稿の第2段階」という楽譜に基づいての演奏で、モーツァルトが楽譜に残した最終形となるのでしょうか。ちょいと楽しみ〜。

ステージに団員が登場すると、当地の慣例で、聴衆から拍手が贈られます。首席コンサートマスターの犬伏亜里さんが登場するとさらに拍手が大きくなり、一礼してオーボエの音に合わせてチューニングが始まります。ここ、演奏会の前に一番期待が盛り上がるところですね〜。

一段と大きな拍手の中を、本日の指揮者の鈴木秀美さんが登場、最初の曲目であるハイドンから。ステージ上には、ハイドンの時代に合わせて編成を縮小しているようで、左から順に第1ヴァイオリン(6)、ヴィオラ(3)、チェロ(2)とコントラバス(1)、右側に第2ヴァイオリン(6)という対向配置です。正面奥にホルン(2)とオーボエ(2)が並び、これで全部です。19世紀末から20世紀の管弦楽法の複雑化を思えば、もうほんとに簡素な楽器編成です。でも、簡素なだけに終わらないのがハイドンの音楽。第1楽章:アレグロ・アッサイ・コン・スピリト。第2楽章:アダージョ、第3楽章:メヌエットとトリオ。ホルンはバルブのないナチュラル・ホルンを用い、トランペットもバロック・トランペットを採用し、弦楽の奏法もヴィヴラートを多用せず、正確な音程とはずむようなリズム感を重視するという作曲当時のスタイルをできるだけ取り入れています。その演奏も、豊かな響きを持つホールの特性と相まって、バランスの良い、澄んだ好ましい響きを作っていると感じます。

続いて、モーツァルトの交響曲第40番です。楽器編成は拡大され、その配置は左から1st-Vn(8)、Vla(5)、Vc(5)、2nd-Vn(7)、正面奥にFl(1)とOb(2)が座し、その奥にHrn(2)、Fg(2)、最奥部にCb(3)という形です。モーツァルトの交響曲全曲演奏及び録音という経験を踏まえたものとはいえ、指揮者が代わればテンポや曲の表情が変わってきます。第1楽章:モルト・アレグロ、第2楽章:アンダンテ、第3楽章:メヌエット、アレグロ〜トリオ、第4楽章:アレグロ・アッサイ。やや速めの鈴木秀美さんの指揮で、耳に馴染み、聴き慣れた名曲の表情がずいぶん変わって聞こえます。これだから演奏会通いはやめられません(^o^)/

15分の休憩の後、こんどは若きベートーヴェンの金字塔、交響曲第3番「英雄」です。この曲は、多くの音楽好きの方々と同様に、私も大好きな音楽です。隣の席のお客さんもお気に入りらしく、文字通り身を乗り出して、聴き入っているのがわかりました。第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ、第2楽章:葬送行進曲、アダージョ・アッサイ、第3楽章:スケルツォ、アレグロ・ヴィヴァーチェ、第4楽章:フィナーレ、アレグロ・モルト〜ポコ・アンダンテ〜プレスト。指揮棒を持たず、両手で的確に表情付けを行う指揮で、全体を通して若い野心的な作曲家ベートーヴェンが行った音楽上の革命ぶりを、決然と表現していました。

当日は、この季節としてはずいぶん気温が高く、聴衆がいっぱいになったホール内ではむしろ暑いほどでした。おそらく、ラッパの開口部に突っ込んだ左手の動きと唇の形だけで音程を作るナチュラル・ホルン奏者の皆さんには、涼しかったロビーコンサートと本番のステージとの気温差で熱膨張する金属の特性に対応するのが大変だったかもしれません。でも、私も、またお隣の座席のお客さんたちも盛大に拍手していましたので、今回も良い演奏会だったと感じました。



演奏会終了後には、ロビーに集まった山響ファンとともに、出演者のアフタートークを聴くことができます。指揮者の鈴木秀美さんへのインタビューは、同じチェリストとして久良木夏海さんが担当。面白かったのは、「会ってみたい作曲家は」という質問に、「ハイドン」という答えがすかさず出てきました。バッハはおっかなそうだし、モーツァルトは宇宙人みたいで話が噛み合わなそうだし、ベートーヴェンは会話が難しそうだけれど、ハイドンは人格的にも挨拶にちゃんと答えてくれそう(^o^)/ うん、エステルハージ公爵家への宮仕え経験が長いハイドンさんですので、これは全く同感ですね〜(^o^)/



そうそう、こんどは「山響ライブ」としてインターネット配信が始まるのだそうです。12月中にはアーカイブが、明年春にはクラシック専門生放送プラットホームも始まるのだとか。山形在住の素人音楽愛好家のレポートではなく、実際の演奏をお聴きいただける機会ができることになるわけで、続報が待たれます。

プログラムの冊子の中に、団員のインタビューがあり、毎回楽しく拝見していますが、今回は山形弦楽四重奏団でおなじみの倉田譲さんが登場していました。インタビュー内容も興味深いもので、今更ながら「へぇ〜」を連発しておりました(^o^)/

(*1):山形交響楽団について〜山形交響楽団ホームページより
(*2):世界のオーケストラの「人気投票」の結果は〜雑誌『音楽の友』のランキング〜「電網郊外散歩道」2019年4月〜チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団だとかマリインスキー歌劇場管弦楽団、モントリオール交響楽団などと並んで世界45位に位置し、人口20万人規模の地方都市に本拠を置く国内オーケストラとしては快挙と、山響ファンは大喜び(^o^)/
(*3):最初にレポートしたのは第162回定期演奏会でした。〜山形交響楽団第162回定期演奏会〜「電網郊外散歩道」2005年2月
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